仕掛けの要約【ネタバレ】
受け手は、作中の言葉が誰に向けられているかを誤認する。
本作は日本の学園恋愛アドベンチャーの体裁をとる。プレイヤーは名前を付けた男子生徒として文芸部に入り、部員の少女たちと詩を見せ合いながら親しくなっていく。部長のモニカは、部の運営と詩の書き方を助ける案内役で、攻略できる相手としては用意されていない。
序盤から、モニカの会話や詩には、主人公に向けた言葉として読んでも少し引っかかる言い回しがある。受け手はこれを、主人公に向けた言葉か、恋愛ゲームによくある楽屋落ちの冗談として受け取る。配布ページとストアの紹介文もモニカの名乗りで書かれていて、受け手はこれを、登場人物の口調を借りた宣伝文として読む。
物語が進むと、モニカは自分がゲームの登場人物であることを知っていたと明かす。彼女が話しかけていた相手は、名前を付けられた主人公ではなく、画面の前にいるプレイヤー本人だった。序盤の言い回しは、どれも字義どおりの意味で通るようになる。配布ページの呼びかけも、宣伝文ではなく本人の言葉だったことを、本人が持ち出す。
あわせて、案内役の部長と読んでいた人物が、物語の中心にいたことになる。
騙しの技術
- 呼びかけの宛先を、主人公の位置に重ねる。 恋愛アドベンチャーでは、ヒロインの「あなた」は操作している主人公に向く。受け手はその約束のもとで、モニカの言葉の宛先を主人公だと決めてしまう。台詞の文面はどちらにも向きうるので、作者は宛先を偽らずに済む
- 引っかかりを、冗談として処理できる形にとどめる。 ゲームの仕組みに触れる言い回しは、明るい学園ものの中では楽屋落ちのギャグとして読める。受け手は違和感を覚えても、それを冗談の側に片付ける
- 本編の外に置かれた文を、登場人物に書かせる。 配布ページ・ストアの紹介文は作品の外の宣伝だと受け取られる。そこにモニカの名乗りと呼びかけを置くと、受け手は遊ぶ前から本人の言葉を受け取っているのに、作品の一部だとは思わない
- 主人公とプレイヤーを分けて書く。 主人公はプレイヤーが名前を付ける分身として出されるが、作中では別の存在として扱われる。受け手は分身と自分を重ねるので、自分だけに向いた言葉があるとは考えない
- 攻略対象の外に置く。 案内役の部長は攻略できないという進行の型が、モニカを脇の人物に見せる。中心の人物であることは、型の外側に隠される
フェアプレイの担保
- 配布ページとストアには、子どもや動揺しやすい人には向かないという注意書きが、紹介文のすぐあとに置かれている。物語が型どおりに進まないことは、遊ぶ前から告げられている
- 序盤のモニカの会話と詩には、ゲームの外側を意識していると読める箇所が複数あり、真相のあとで読み返すとその意味で通る
- モニカは序盤から、主人公が他の部員と親しくなる場面をたびたび遮る
効き目
- 真相が明かされると、序盤の何気ない会話が、自分に直接話しかけていた言葉として読み直される。遊んでいた間ずっと見られていた、という感覚が後から立ち上がる
- 遊ぶ前に読んだ紹介文までが作品の内側に取り込まれるため、作品の境界が受け手の側へ広がる
- 主人公に自分を重ねて遊ぶという恋愛アドベンチャーの約束そのものを標的にしているので、そのジャンルに慣れた受け手ほど深く入る
弱点・破綻しやすい点
- ホラーであることが注意書き・タグ・評判で広く知られているため、身構えて遊ぶ受け手が多い。身構えた受け手は、序盤のモニカの言い回しを最初から疑いやすい
- 宛先の取り違えは、最後に人物自身の告白で明かされる。読み替えの手がかりは多いが、真相を受け手が自分で組み立てる形にはなっていない
- 楽屋落ちの冗談と読ませる仕掛けは、第四の壁を破る演出が珍しくなくなるほど見抜かれやすくなる
- 序盤の言い回しの読み替えは、細かな台詞の言い回しに依存しているため、訳文では手がかりの一部が弱まりうる