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名前探しの放課後

辻村深月 / 2007 / 小説

読者が誤認するもの

人物›人物の属性›役割
動機・心理›動機の誤認
人物›人物の誤認›一人を複数
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層複合
叙述N-動機と心理N-人物の同一と別
媒体固有T-共通/囮の仕掛けT-小説/呼称の揺れ
効果E-推理する人物が探偵役であるE-別の名前は別の人物

⚠️ このページは作品の核心(真相)に触れます。未読・未視聴の場合はご注意ください。

まだ読んでいない方へ。この下は真相に触れます。

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仕掛けの要約【ネタバレ】

高校一年の依田いつかは、三か月先の未来から戻ってきたと感じている。年明けに同じ学年の誰かが自殺する。その記憶を抱えて、いつかは同級生の坂崎あすなに打ち明け、仲間を集めて、死ぬのが誰かを探し、止めようとする。探すうちに、いじめを受けているらしい男子生徒が浮かび、仲間たちは彼を救うための計画を進める。物語は、いつかの視点の場面と、あすなの視点の場面を交互に置いて進む。

真相では、自殺するはずだったのはあすなだった。いじめを受けている男子生徒は、あすなを救うために仲間たちが仕立てた偽の候補で、いじめそのものも芝居だった。いつかは、最初から死ぬのがあすなだと分かっていて、あすなに相談する前に友人に相談し、計画を組んでいた。計画を知らなかったのは、あすなと、その祖父だけだった。

受け手は、いつかの視点の場面を、自殺者を知らずに探す少年の場面として読む。地の文は、いつかが何を覚えているかを書かずに通し、受け手は、いつかの台詞(覚えていない)と、あすなの視点の場面の誤解をそのまま引き受ける。

もう一つの層として、作者の別の作品の人物たちが名前を変えて登場している。いつかの仲間の一人で他校に通う少女は、恋人の少年から名前で呼ばれず、周囲からは呼び名の一つで呼ばれる。受け手はその呼び名を下の名前として読むが、それは名字だった。終盤の呼びかけで下の名前が明かされ、別の作品の人物と同じだと分かる。

未来から戻ってきたこと自体の正体(実際に時間を遡ったのか)は、作者の別の作品の設定に基づいて説明される。こちらは、いつか自身も信じていた事柄で、作中の層にあたる。

騙しの技術

  • 騙す側の視点を、騙される側の視点と並べて置く。 あすなの視点の場面は、あすなが実際に騙されている場面として読める。受け手はあすなと一緒に騙される。同じ並びに置かれたいつかの視点の場面も、同じく何も知らない側の視点として読まれる
  • 地の文に、知っていることを書かせない。 いつかの視点の場面で、地の文は、いつかが自殺の詳細を覚えているともいないとも言わない。覚えていないと言うのは台詞の側で、台詞は嘘でもよい。受け手は、視点人物の地の文が沈黙している部分を、台詞で埋める
  • 同じ一文を、前と後で違う意味に置く。 序盤に、あすなについていつかが知っていることは多くない、という一文が置かれる。終盤、その一文に続きが足されて繰り返され、意味が変わる
  • 偽の候補を前面に出す。 いじめを受けている男子生徒の救出が、物語の中盤を占める。受け手の問いは「彼をどう救うか」に向き、「死ぬのは本当に彼か」が立ちにくい
  • 視点人物の人物像を、雑な少年として示す。 いつかは軽い性格の少年として描かれ、振る舞いの不自然さは性格のせいとして処理される、と指摘する資料がある
  • 名字を下の名前に見せる。 少女は、恋人の少年から一度も名前で呼ばれない。周囲の呼び名は名字だが、親しげな呼び方なので、受け手は下の名前として読む。名前が違うので、受け手は別の作品の同じ年頃の少女と結びつけない
  • 作中の層と受け手の層の区別:あすなが騙されているのは、仲間たちの芝居という作中の事情で、受け手はあすなの視点の場面でそれを同じ経路で受け取る。受け手にだけ働いているのは、騙す側であるいつかの視点の場面が、知っていることを地の文で伏せて差し出されることである。いつかの視点の地の文はあすなには届かない

フェアプレイの担保

  • 序盤と終盤に置かれた同じ一文が、真相を知ってから読むと、いつかの知っていることの多さを指す文として通る
  • いつかが自殺の詳細を語る場面で、地の文は覚えているとは言っていない。覚えていないと言うのは台詞だけである
  • いじめを受けている男子生徒の側に、泳げることをほのめかす台詞があるとされる
  • いじめを水泳の練習で解決しようとする作戦が、優秀な仲間が関わっているのに稚拙で精神論に寄っていることを、違和感として挙げる資料がある
  • 終盤、パーティーで物語が一段落したように見えたあとも、ページが残っていることに気づいた、と述べる読者がいる
  • 呼び名の層では、少女が恋人から名前で呼ばれないこと、身につけている小物、口癖のような言葉が、別の作品の人物を指す手がかりになる

効き目

  • 「死ぬのは誰か」という問いの答えが、探す側の中心にいた人物そのものとして返ってくる。探偵役の位置にいた人物が、救われる側だった
  • 中盤の救出劇全体が、あすな一人のための芝居として見え直す。仲間たちの台詞の多くに二重の意味があったと分かる
  • いつかの行動の理由が、終盤で一挙に入れ替わる。軽い少年の思いつきに見えた振る舞いが、一人を救うための準備だったと読める
  • 呼び名の層は、別の作品を読んだ受け手にだけ、もう一度の反転として届く

弱点・破綻しやすい点

  • 偽の候補が見抜かれやすい。 いじめを受けている男子生徒が本当の自殺者ではないことは読めば分かる、と述べる読者がいる。消去法で残る人物が少ないので、真相に先回りされうる
  • 視点人物の内面の書き方が、真相と合わないと感じる読者がいる。 いつかの視点の思考描写からは、あすなが自殺者とは考えにくい、という声がある。地の文が沈黙しているだけでなく、知らない者の思考として読める書き方になっているなら、公正さの線に近づく
  • 芝居の規模に無理を感じる読者がいる。 いじめの芝居が学年の中で周囲に知られずに済むのか、演技が巧すぎる、という声がある。芝居が作中で成立しにくいと、受け手の層の仕掛けも茶番に見える
  • 別の作品への依存。 時間を遡ったことの説明と、呼び名の層の反転は、作者の別の作品を読んでいないと分からない。読んでいない受け手には唐突で、この点を不公正とみる声がある
  • 時間を遡ったことの正体は作中で明言されず、読み手によって解釈が分かれる

読み返してみませんか。

仕掛けを知ってから読むと、同じ記述が別の意味で通ります。

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