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ラットマン

道尾秀介 / 2008 / 小説

読者が誤認するもの

人物›人物の属性›役割
動機・心理›動機の誤認
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層メタ
叙述N-動機と心理
効果E-ジャンルの約束は守られるE-作者が内側から追う人物は犯人である

⚠️ このページは作品の核心(真相)に触れます。未読・未視聴の場合はご注意ください。

まだ読んでいない方へ。この下は真相に触れます。

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仕掛けの要約【ネタバレ】

結成14年のアマチュアバンドのギタリスト・姫川亮を中心に物語は進む。練習中のスタジオで、かつてのバンドメンバーで姫川の恋人だった小野木ひかりが、倉庫でアンプの下敷きになって死んでいるのが見つかる。事件の後、姫川は現場や警察の捜査に対して何かを隠し、細工するように動く。その行動は描かれるが、なぜそうするのかは伏せられたまま進む。

読者は、隠蔽に動く視点人物を見て、倒叙ミステリの型——犯人の側から犯行の後始末を描く形式——として読み、姫川がひかりを殺したのだと受け取る。

真相では、姫川は殺していない。姫川は、ひかりの妹の桂が姉を殺したと思い込み、桂をかばうために事故に見せかけていた。隠蔽という行為そのものは実際に起きているが、その理由を読者は取り違えていた。ひかりを殺したのは、二人のどちらでもない別の人物である。

作中では同じ構図——他人の行動を、自分の思い込みに合わせて読む——が、現在の事件の関係者たちのあいだでも、23年前の姫川家の死をめぐる家族のあいだでも繰り返される。題名の「ラットマン」は、見る文脈によってネズミにも人の顔にも見える図形を指す。

騙しの技術

  • 行動を書き、理由を書かない。 視点人物が事件後に取る行動は描写されるが、その動機となる思い込み(誰をかばっているのか)は終盤まで提示されない。読者は空いた理由の欄を、もっとも手近な説明——本人が犯人だから——で埋める
  • 倒叙の形式に寄りかかる。 視点人物が後始末に動く場面が続くことで、作品は倒叙ミステリとして読まれる。倒叙の約束では「後始末をする視点人物=犯人」であり、読者はその約束を作品に持ち込む
  • 周囲の疑いを並べる。 他のバンドメンバーの視点の場面が部分的に挟まれ、彼らも姫川を疑い始める。作中人物の疑いが、読者の推測を外から補強する
  • 作中人物にも同じ誤読をさせる。 姫川がかばっている相手のほうは、逆に姫川が自分のために殺したと考えている。誤読が双方向に起きているため、読者の誤読は作中で浮いて見えない

フェアプレイの担保

  • 姫川の行動は、真相を知って読み返すと「殺人の後始末」ではなく「誰かをかばうための偽装」としても通るように書かれている。同じ記述が二通りに読めることを、書評者の一人は「同じ文章が複数の意味に読めるという手法を駆使したパズラー」と評している
  • 題名と作中で説明される錯視図形そのものが、文脈によって同じものが別に見えることを予告している
  • 作中の細かな違和感が後の伏線になっている、とする感想が複数ある

効き目

  • 倒叙ミステリとして読み進めた読者は、「どう露見するか」に注意を向けるため、「本当に彼が殺したのか」という問いをそもそも立てにくい
  • 真相が明かされた後も、現在の事件・過去の事件の双方で解釈が繰り返し覆される多段構造になっており、多くの感想が「二転三転」「何度も騙された」と記している
  • 誤読の仕組みが、作品の主題(思い込みによる知覚の歪み)と重なっているため、読者自身が主題の実例になる

弱点・破綻しやすい点

  • 書評の中には「地の文で明らかに嘘を書いている箇所があり、アンフェアな印象を残す」とする評がある。一方で「作者が何かを隠しながら書いているのは明らか」として、隠し方が透けていたとする評もあり、受け止め方は割れている
  • 伏線が少ない、あるいは終盤の反転に対する伏線が弱くなりがちだという指摘がある
  • 「犯人は誰か」という問いが前面に出ているぶん、先行きを予測しやすいとする評もある
  • 終盤の反転が畳み掛けるように続くため、過剰に感じる読者もいる

読み返してみませんか。

仕掛けを知ってから読むと、同じ記述が別の意味で通ります。

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