類別叙述トリック集成

一覧 / 片眼の猿

片眼の猿

道尾秀介 / 2007

ネタバレ度:致命
メタ
叙述N-身体的条件の隠匿N-人物の属性
媒体固有T-小説/一人称の空白T-共通/囮の仕掛け
効果E-語り手は正しく知覚しているE-語り手は自分の属性を知っている
媒体小説

⚠️ このページは作品の核心(真相)に触れます。未読・未視聴の場合はご注意ください。

まだ読んでいない方へ。この下は真相に触れます。

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仕掛けの要約【ネタバレ】

登場人物の多くが、それぞれ身体的な条件を抱えている。

そしてその条件が、終盤まで明示されない。

語り手は盗聴を専門とする探偵で、特別な聴力を持つ。

新しく組むことになる女性は、遠くを見通す視力を持つ。

読者は、二人が「並外れて大きな耳・大きな目の持ち主」だと読む。

真相——逆である。

語り手には耳がなく、相手の女性の目は小さい。

欠けているからこそ、残った感覚が鋭くなっている。

騙しの技術

冒頭で、逆方向の解釈を刷り込む。

冒頭の会話にこうある——「犬は鼻が大きい。顔の半分が鼻だ」。

「感覚が鋭い=その器官が大きい」という枠組みが、 物語の入口で読者に渡される。

以後、聴力の鋭さは「大きな耳」として、 視力の鋭さは「大きな目」として読まれる。

作り手は嘘を書いていない。犬の話をしただけである。

身体の条件を、明示しないまま進める。

語り手自身の条件も、他の人物の条件も、地の文で説明されない。

一人称であるため、自分の身体をわざわざ描写しなくても不自然ではない。

フェアプレイの担保

ある人物は「鼻が悪い」/別の人物の部屋はいつも暗い/

頭に手を乗せようとしてわずかにずれる/

足音が「その人だけ分からない」/長靴についての冗談 など

弱点——なぜ効かないのか

失敗の分析として、最も材料が揃っている一例である。

先行研究の著者が、効かない理由を4点にわたって述べている。

① 偽の真相と真相が、同じ性質のものである。

「巨大な耳」も「耳がない」も、読者にとってはどちらも身体の条件である。

入れ替わっても、世界の見え方が反転しない。

叙述トリック特有の「強烈な反転」が起きない。

② 真相のほうが、偽の真相より「普通」である。

「あり得ないほど遠くを見通す目」より「小さな目」のほうが日常的。

驚きは、非日常から日常へ向かうと弱くなる。

③ ミスディレクションのない人物が多い。

主要な二人以外は、偽の真相へ誘導する仕掛けが用意されていない。

ただ真相が伏せられているだけである。

「隠すこと」だけでは叙述トリックにならない(観察メモ★23 の裏づけ)

④ 手がかりが多すぎて、透けている。

③の人物たちには、真相を示す伏線が随所に置かれている。

隠す仕掛けがなく、手がかりだけが多い——結果として見え見えになる。

そして最悪の副作用が生じる:

読者に見えている真相を、語り手が明示しないという不自然さ。

会話ならまだしも、地の文=語り手の内面においてまで 「分かった」とだけ書いて内容に触れない。

「奥歯にものが挟まったような表現」という居心地の悪さが残る。

効き目(限定的)

(⚠️ ただし作者の狙いかどうかは定かでない、とも述べられている

読み返してみませんか。

仕掛けを知ってから読むと、同じ記述が別の意味で通ります。

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