仕掛けの要約【ネタバレ】
同じ作者の TDB-0021 と同様、向きの異なる仕掛けが二つ重なっている。
ひとつは閉ざされた村の住民に共通する色覚の特性。ある色の区別がつかないという条件が、
村人には自覚されていない。読者にはその事実が示され、作中人物のほうが気づいていない——
通常の叙述トリックとは向きが反対の型で、犯人の絞り込みに直結する。
もうひとつは語り手そのもの。語り手が名乗る名と、その実体が食い違っている。
さらに、語り手が探している人物は実在しない。
騙しの技術
「別の名前で呼ばれている=別人である」という前提を使う。
複数の名で呼ばれる人物がおり、読者はそれを別々の人間として蓄積する。
名前の使い分けによって、同一性と時間の隔たりが同時に隠される。
語り手の一人称と、周囲の呼びかけをずらす。
語り手は一貫して特定の名を名乗るが、それが実体と一致しているとは書かれていない。
村の条件を、風習・信仰の描写に紛れ込ませる。
色覚の特性は、閉鎖的な共同体の異様さを描く記述の一部として提示される。
読者はそれを雰囲気づくりとして読み、推理の材料として扱わない。
フェアプレイの担保
- 色覚の条件は本文に提示されており、読者は真相到達に必要な情報を与えられている
- 名前の使い分けは記述として存在し、後出しの設定ではない
- ⚠️ ただしフェアではないという批判が強い(下記「弱点」参照)。担保は十分とは評価されていない
効き目
- 色覚の仕掛けは、読者だけが持つ情報で犯人が絞れるという珍しい形を作っている
- 語り手をめぐる反転は、終盤の一言で提示され、それまでの語り全体の帰属が変わる
- 閉鎖的な村の異様な描写が、仕掛けの材料を風景として隠す働きをしている
弱点・破綻しやすい点
- アンフェアだという指摘が具体的に挙げられている。
語り手の名が実体と異なるなら成立しないはずの、家族の呼びかけの記述が本文にあると指摘されている
- 同一人物であることに周囲が気づかない点が不自然だという批判がある
- 「誤認しているのは読者だけで、物語の上では何も変わらない」という批判がある。
逆叙述は、作中の出来事に影響しないと技巧の披露に見えてしまう
- 村の描写が長く、仕掛けに関わらない部分で読者の集中が切れるという評価がある