仕掛けの要約【ネタバレ】
仕掛けが二つあり、向きが逆になっている。
ひとつは語り手の正体。一人称で語られるが、読者はその語り手を、
場面の流れから自然に特定できる人物だと思い込む。実際には別の人物が語っている。
もうひとつは性別の誤認だが、こちらは向きが反対である。
ある人物の性別について、読者には正しい情報が与えられており、 誤認しているのは作中の人物たちのほう。通常の叙述トリックが反転した形になっている。
騙しの技術
語り手を、印象の薄い位置に置く。
真の語り手は、登場人物の紹介場面でほとんど描写も台詞も与えられない。
読者の記憶に残らない人物として処理されるため、語り手の候補から自然に外れる。
感情の記述で、別の人物を語り手だと思わせる。
故人への感情が綴られる箇所があり、その感情を抱くのが自然な立場の人物が別にいる。
読者はその人物を語り手として同定する。書かれているのは感情だけで、誰のものかは書かれていない。
位置関係の記述に、正解を置く。
座席の位置や部屋の割り当てといった空間の記述が本文にあり、
真の語り手がどこにいたかを示している。読み流されるが、嘘ではない。
性別は、作中人物の側の思い込みとして書く。
当人が用いる一人称と、周囲の扱いによって、作中人物たちは性別を取り違える。
読者はその取り違えを外から見ている状態に置かれる。
フェアプレイの担保
- 位置関係・部屋割り・会話の配置に、語り手を特定できる記述が置かれている
- 人物の命名に規則性があり、そこから外れる人物が手がかりとして機能するという指摘がある
- 性別については読者に正しい情報が与えられており、この点に関して読者は騙されていない
- ※ 一方で「完全にフェアとは言い難い」という評もある(下記「弱点」参照)
効き目
- 叙述トリックの向きが二つ同居している。読者が騙される仕掛けと、
読者だけが真実を知っている仕掛けが並走する
- 語り手の正体が判明すると、感情の記述の帰属がすべて組み替わる
- 逆向きの仕掛けは、読者に作中人物が誤解していく様を見せるという別種の緊張を作る
弱点・破綻しやすい点
- 語り手を印象の薄い人物にする都合上、その人物の内面の掘り下げが制限される
- フェアかどうかについては評価が分かれている
- 位置関係の記述は、丁寧に図を起こす読者には早い段階で矛盾として現れる