仕掛けの要約【ネタバレ】
一人称で語る連続殺人犯を、読者は男性だと読む。実際には女性である。
さらに、その語り手と、作中で容疑者として浮上する人物が別人であることも、
読み進めるあいだは意識されない。語っている当人の属性と正体が同時に伏せられている。
騙しの技術
題名が最初に嘘を引き受ける。
題名に「男」の語が含まれる。これは作中で報道が付けた通称であって、
作中人物が根拠なく呼んでいるだけという構造になっている。
読者は本文を読む前に、題名によって性別を決めてしまう。
一人称を男女どちらでも使える語にする。
語り手の一人称は性別を確定させない語が選ばれている。
加えて、話し方がぶっきらぼうに書かれ、性別への違和感が消される。
容疑者像と語り手像を重ねる。
警察の捜査線上に浮かぶ人物の年齢や体格が、語り手の自己認識と近い位置に置かれる。
視点が交互に切り替わることで、読者は両者を無意識に同一視する。
フェアプレイの担保
- 性別を偽る記述はない。通称・一人称・話し方という、いずれも嘘ではない要素の積み上げ
- 手がかりが本文に置かれている:他人の口調への言及、被害者の遺体の状態に関する記述、
衣服に関する描写など、性別を推定できる記述が複数ある
- 語り手の内面には別の人格が現れ、その人格は別の一人称を用いる。語りの構造自体が提示されている
効き目
- 題名という、本文の外側の要素が仕掛けの主役になっている。読む前から騙されている
- 犯人視点で進む倒叙形式のため、読者は「犯人が誰か」ではなく「どう捕まるか」に注意を向ける。
注意の向き先そのものが誘導されている
- 真相開示後、語り手の自己認識に関する記述がすべて別の意味を持つ
弱点・破綻しやすい点
- 一人称の性別隠しは、叙述トリックの型として広く知られている。警戒した読者には見抜かれやすい
- 題名に依存するため、題名を変えられる場面(翻訳・映像化・別媒体展開)で威力が落ちる
- 語り手の話し方を「男性的」に寄せるほど、真相開示後の人物像に負担がかかる