仕掛けの要約【ネタバレ】
人気絶頂の歌手 ROMMY が、海外の大物ミュージシャンとの録音を控えたスタジオで絞殺体となって見つかる。関係者の証言と、写真・歌詞・年表などの資料を交えながら、現在の事件と ROMMY の半生(本名・杉下裕美として過ごした少年期から、デビュー、人気の頂点まで)が交互に語られていく。
読者は ROMMY を、最初から最後まで一人の女性歌手として読み、少年期のパートも「裕美という少女の話」として受け取る。
真相として、ROMMY は出生時の性別が男性で、女性として生きることを選んだ人物であることが、終盤の記者会見で本人の口から明かされる。少年期に母親から激しく叱られていたことや学校でからかわれていたこと、家を出るときに大金を持ち出したこと、素顔を見せない派手な化粧を続けていたことは、すべてこの事実から説明がつく。死体が損壊された理由も、この秘密を守ろうとした人物の行動として明らかになる。
仕掛けは二つの層に分かれる。
- 現在の層(作中の隠蔽):ROMMY が性別の経緯を公表していないため、作中の関係者や世間も ROMMY を女性歌手として扱っている。殺された遺体が替え玉であったことや、秘密を守るための死体損壊は、作中の人物が行った工作である
- 過去の層(読者への仕掛け):少年期のパートでは、周囲の人物は裕美の性別を知っている。にもかかわらず、その記述は性別を明示しない。読者だけが少女の話として読み続ける
騙しの技術
- 性別を書かずに、名前に任せる。 本名の「裕美」は女性名としても男性名としても読める。読者は女性歌手の本名として読み、少女の名として補完する
- 少年期の出来事を、理由を伏せたまま書く。 母親の怒りや学校での扱いは出来事として描かれるが、その原因は書かれない。読者は家庭の事情や本人の気性として読み流す
- 現在の層で、作中の人物にも同じ誤認をさせる。 関係者が ROMMY を女性として扱うので、読者はそれを裏づけとして受け取る。周囲が疑わないことが、読者の補完を固める
- 事件の謎を前に出す。 密室状況の殺人と、目を離した隙に起きる死体損壊という二つの謎が物語を引っぱるため、ROMMY 本人が何者かという問いは後ろに退く
フェアプレイの担保
- 少年期の記述は、真相を知って読み返すと別の意味で通る。母親の怒り、学校での扱い、家を出るときの大金がそれぞれ性別の事実に結びつく、と振り返る読者がいる
- 名前が男女どちらにも取れること、女性同士の関係を表す語が避けられている箇所があることを、手がかりとして挙げる読者がいる
- 作中の歌詞や表紙の図像も真相と結びついている、と評する読者がいる
- 一方で、伏線が地味で真相を知っても納得しにくいという評もある
効き目
- 性別の事実が、殺人の動機、死体損壊の理由、ROMMY の化粧や振る舞いの理由を一度に説明する。驚きが一点で終わらず、作中の不可解な行動の多くがここで意味を変える
- 人物の生き方そのものが真相になっているため、謎解きの驚きと人物像の反転が同時に起きる。読後に、事件よりも人物の物語として記憶されやすい
弱点・破綻しやすい点
- 題名が手がかりを出しすぎる。 文庫化で副題が改められたあと、その語から真相を連想したという読者が複数いる。初刊時の副題では、この連想は起きにくかった
- 作者の作風を知る読者には読まれやすい。 同じ作者の他作品を読んでいて、性別の仕掛けを予想できたという声がある
- 仕掛けとして機能したかは評価が分かれる。 性別の誤認によるミスリードというより、人物の葛藤を描くことが主眼だと読む読者もいれば、叙述らしく見えてひねりがなかったと評する読者もいる
- 時代に依存する。 作中の時代の社会的な状況が、秘密を守ろうとする人物たちの行動の前提になっている。現代の読者には、なぜそこまで秘密にするのかが伝わりにくいという感想がある