仕掛けの要約【ネタバレ】
妻の浮気をきっかけに別居し、湖畔の山荘で書けなくなっている作家のもとへ、田舎風の帽子をかぶった男が現れ、自分の小説を盗んだと詰め寄る。男は結末を書き直せと迫り、嫌がらせは飼い犬の死、別居中の家の火事、雇った探偵と地元の住人の殺害へと進む。観客は作家と男を、脅される者と脅す者という別々の二人として観る。
真相では、男は存在しない。作家が自分の怒りを引き受けさせるために作り出したもう一つの人格で、犬を殺したのも、火をつけたのも、二人を殺したのも作家自身だった。
誤認は、画面で作家と向き合い、言葉を交わし、手首をつかんでいた男が、作家その人だったことである。
なお、真相を知った作家が別居中の妻とその恋人を手にかけ、町で疑われながら暮らし続ける結末は、明かされた事実の上に進む筋で、ここでは叙述の層として扱わない。
騙しの技術
- もう一つの人格を、実在の人物と同じ撮り方で撮る。 男は別の俳優が演じ、作家とは違う顔、違う訛り、違う身なりで画面に立つ。主観の映像だと示す標識はなく、作家と同じ画面の中で作家と会話し、作家に触れる。画面に二人いれば二人いる、という前提がそのまま使われる
- ほかの人物と交わらせない。 男が現れるのは、作家が一人でいるときだけである。探偵や保安官や妻は男の話を作家から聞くだけで、男と同じ場面に立たない。孤立した山荘で暮らす作家の物語なので、この欠落は不自然に見えにくい
- 目撃者を一人だけ置く。 作家が男と路上で向き合っている場面に、地元の住人の車が通りかかる。作家はのちに、この住人が男を見たはずだと言う。観客もその場面で男を見ているので、目撃者がいたと受け取る。実際には、住人が見たのは作家一人だった
- 疑いの向きを別の人物に逸らす。 前半、作家は妻の恋人が男を雇って自分を追い詰めていると疑う。黒幕がいるかどうかに注意が向き、男そのものが実在するかは問われにくい
フェアプレイの担保
- 男は作家が一人のときにしか現れず、ほかの誰とも同じ画面に立たない。批評でも、これが結末を予告しているという指摘がある
- 通りかかった住人は男を見ていない、という話が、種明かしの前に探偵を通して作家に伝えられる
- 男の名前そのものが、作家が誰に向けて怒りを抱いているかを示す語呂になっている
- 男の帽子と訛りは、作家と妻の過去の思い出の中にすでに出てくる
- 冒頭から鏡が繰り返し映され、作家の姿は鏡の像として画面に入ってくる
効き目
- 種明かしの場面で、作家は鏡の前で自分自身と言い争い、男などいないと告げられる。それまで二人の役者が演じていた対立が、一人の中の出来事に置き換わる
- 見直すと、男と作家の会話は作家の独り言として、男の暴力は作家自身の行為として、すべて通る。通りかかった住人の場面は、作家が一人で立っていた場面として回想で示し直される
- 作家が自分の飼い犬を殺していた、という事実が、真相のあとに遅れて効いてくる
弱点・破綻しやすい点
- 型が知られている。 主人公にしか見えない相手がもう一人の自分だった、という種は ファイト・クラブ 以来よく知られており、早い段階で見抜かれやすい。予想できたという批評がある
- 予告が目立つ。 男がほかの誰とも同じ画面に立たないという制約が、続けるほど手がかりとして目につく(ファイト・クラブ・ビューティフル・マインド と同じ制約)
- 仕掛けが登場人物の物語に結びつかない、という批判がある。 種が観客だけに向けられていて、作中の出来事の意味を変えない、と評した批評もある
- 原作と向きが違う。 原作の中編は、男が作家の想像から実体を得たかもしれない余地を残す。映画は男を純粋にもう一つの人格に絞ったので、仕掛けは映画の撮り方に負っている