仕掛けの要約【ネタバレ】
物語は二つの流れを交互に進む。一つは、ミステリ作家である一人称の語り手の章。語り手の恋人は自宅の階段から転落し、何年も昏睡が続いている。恋人の兄は、事故の夜に家にいた語り手とその友人二人を地下のシェルターに閉じ込め、妹を突き落とした者が名乗り出るまで出さないと告げる。もう一つは、恋人を友人に奪われた女性の章。彼女はネットで知り合った相手に悩みを打ち明けるうち、メールで代理殺人の計画を持ちかけられる。無関係に見える二つの事件は、終盤で一つにつながる。
読者は、一人称で語る作家を男性として読む。語り手は自分を「僕」と呼び、作家として作者と同じ姓で呼ばれ、昏睡した女性の恋人として描かれる。
真相では、語り手は女性だった。作中の人物は誰もがそれを知っており、思い違いをしていたのは読者だけである。語り手の性別が分かると、恋人との場面や、友人たちとの関係、語り手が避けてきたことの意味が変わる。
騙しの技術
- 一人称の語り手は、自分の性別を言わなくてよい。 語り手は自分を「僕」と呼ぶが、性別を断定する描写は置かれない。一人称の語りは自分の身体を説明しないのが自然なので、書かれていない性別は読者が補う
- 作者と同じ姓を語り手に与える。 語り手はミステリ作家で、作者と同じ姓で呼ばれる。読者は作中の作家に作者自身を重ね、作者の性別をそのまま語り手に移す。この経路で騙されたと述べる感想が多い
- 周りの配置を、男性の語り手として通る形にしておく。 昏睡した女性の恋人であること、事故の夜に男友達と同じ家に泊まっていたこと、シェルターに閉じ込められた三人の一人であることは、どれも語り手を男性と読めば自然に収まる
- 事件の謎を前面に出す。 誰が恋人を突き落としたのか、外で進む代理殺人がどこにつながるのかという二つの問いに読者の注意が向き、語り手が何者かという問いは立たない。語り手の性別は事件の解決にほとんど関わらない、と述べる感想もあり、そのことが逆に疑いを遠ざけている
- 二つの流れの間で、同じ人物を一方では姓、一方では名だけで書いている、という指摘もある。人物のつながりが見えにくくなり、名前が明かされた場面で二つの事件が結びつく
フェアプレイの担保
- 恋人との場面の書き方、裸になることや入浴を避ける振る舞い、旅行の誘いを嫌がる様子など、読み返すと語り手の性別を示していた描写が多い、と複数の読者が述べている
- 性描写そのものが伏線として働いていた、という感想が繰り返し出る
- 語り手の性別を断定する描写がない点に気づき、早い段階で疑って読んだ読者もいる
効き目
- 語り手の性別が反転すると、恋人との関係、友人たちの思惑、事故の夜に何が起きたのかの意味が一度に置き換わる。事件の真相と重なって、反転が二重三重に来る、と評される
- 作者と同じ姓の作家という設定に乗って読んだ読者ほど、反転が大きい
- 短い作品に仕掛けが詰め込まれている、読後に最初に戻って答え合わせをした、という感想が多い
弱点・破綻しやすい点
- 一人称「僕」への反発が強い。 女性の語り手に「僕」と名乗らせる点を、反則・ずるい・フェアでないと感じる読者が少なくない
- 性別の反転が事件の本筋に効いていない、という評がある。 男女の話として読んでも本筋は変わらない、交換殺人に絡めた仕掛けであってほしかった、という声
- 性描写の違和感が手がかりとして目立ち、中盤で見抜いたという読者も多い。性別を入れ替える叙述トリックに慣れた読者ほど早く気づく
- 暴力的な性描写や死体の扱いの描写に不快感を述べる感想があり、仕掛けの評価を下げている
- 結末の枠(作中の出来事がどこまで現実か)について読みが分かれ、すっきりしないという声がある