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そして扉が閉ざされた

岡嶋二人 / 1987 / 小説

読者が誤認するもの

人物›人物の隠匿›視点人物の隠匿
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層複合
叙述N-行為の偽装
媒体固有T-共通/語り手の信頼性
効果E-語り手は自分の行為を知っているE-語り手は正しく知覚しているE-犯人の内心は描かれない
手段M-死体の細工

⚠️ このページは作品の核心(真相)に触れます。未読・未視聴の場合はご注意ください。

まだ読んでいない方へ。この下は真相に触れます。

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仕掛けの要約【ネタバレ】

資産家の一人娘が別荘で事故死してから三か月後、彼女の遊び仲間だった男女四人が、地下の核シェルターに閉じ込められる。閉じ込めたのは娘の母親で、四人の中に娘を殺した者がいると考えている。四人は脱出を試みながら、あの日の別荘で何があったのかを互いの記憶から組み立て直していく。物語は、閉じ込められた現在と、事故の前後の過去とを交互に描き、どちらもひとりの青年の視点に寄り添って進む。

読者はこの青年を、事件の真相を追う側の一人として読む。彼の視点からは誰が殺したのか分からないまま、推理はほかの三人の上を移っていく。

真相では、娘の死を招いたのはこの視点人物自身だった。あの日、彼は口論の末に娘を突き放して部屋を出た。そのはずみに凶器が彼女の急所に当たり、彼女は即死していた。一瞬の出来事で、彼は自分が人を死なせたことに気づかないまま立ち去っていた。その後に居合わせた別の人物が、彼が殺したと思い込んで庇い、さらにもう一人がその人物を庇おうとして、死を事故に見せかけた。視点人物が真相を知るのは、推理を重ねた最後のことである。

騙しの技術

  • 致命の場面を、隠さずに見せている。 視点人物が娘を突き放して部屋を出る場面は、過去の章の中で描かれている。しかしその場面は、彼の目に映ったとおりに書かれている。娘は目と口を大きく開けて彼を見つめていた、驚いた表情のままだった——視点人物はそれを、言い争いの相手が呆然としている顔として受け取る。読者も同じ顔を見せられ、同じように受け取る。真相を知ってから読み返すと、同じ描写が死の瞬間の描写として読める
  • 視点人物自身が知らない。 彼は自分のしたこと(突き放したこと)は覚えているが、その結果を知らない。知らないので、考えることも語ることもない。作者は何も伏せる必要がなく、「視点人物は自分が何をしたかを知っている」という読者の前提だけで、彼は容疑者の列から外れる
  • 内面を描かれる人物を疑わせない。 視点人物の推理・疑い・感情は詳しく描かれる。読者は彼と一緒に推理するので、彼自身を推理の対象に置かない
  • 作中の工作が、誤認の上にかぶさる。 死体は移され、死は別の場所での事故に見せかけられている。四人の推理は、この工作をはがしていく形で進む。ただしこの工作は、作中の人物と読者とを同じように欺くもので、それ自体は作中のトリックにあたる
  • 視点人物を犯人とする型の中でも、語り手が知っていて書かない形(アクロイド殺し)とは異なり、本作では視点人物が知らないので書けない。この点で 仮面山荘殺人事件 と同じ側にある

フェアプレイの担保

  • 致命の場面そのものが、真相の前に本文に書かれている。犯人が分かってから読み返し、これほど露骨に書いてあったのに気づかなかったと述べる読者がいる
  • 視点人物を庇っている人物の言動(彼を気づかう言葉、彼が疑われたときの激しい反応、彼に向けるまなざし)は、真相を知って読み返すと、隠蔽を知る者の振る舞いとして読める、と指摘されている
  • 凶器が何であり、どこを突かれれば一瞬で死に至るかが、真相の説明で一貫して示される。自覚できないほど瞬時に死なせる方法が、そのために選ばれていると評されている
  • 一方で、凶器の種類と過去の電話での会話から、真相に気づきやすいという読者もいる
  • 読み手としては騙されているわけではない、と受け取る読者もいる。視点人物が知らないことを読者も知らないだけで、語りが読者に対して何かを偽っているわけではない、という見方である

効き目

  • 推理を尽くした末に、推理していた本人が犯人だと分かる。その瞬間の絶望の強さが、本作の結末の力として挙げられている
  • 視点人物は自分が犯人であることにまったく気づいていないので、語りの側の作為が感じられにくい、と評されている。意図的に伏せる語り手に向けられがちな不快感が起きにくい
  • 解決は一度では終わらず、容疑者が次々に入れ替わる。偽の解決を重ねたあとに、最も疑われていなかった位置へ着地する

弱点・破綻しやすい点

  • 無自覚の殺人という設定に、納得しにくいと感じる読者がいる。 人を死なせて気づかないことに説得力が要り、凶器と位置の設定でそれを支えているが、拍子抜けしたという感想も少なくない
  • 手がかりが露骨に見えることがある。 凶器と会話の伏線から結末を見抜いたという読者がいる。見せている場面が真相そのものなので、読者がそこで一度立ち止まれば、隠す仕掛けが弱い
  • 視点人物を庇う動機が十分に描かれていない、という指摘がある。視点人物の無自覚は、庇う人物の行動に支えられているので、その動機が弱いと誤認の土台も弱く見える
  • 登場人物に共感しにくいという感想が多い。推理劇としての緊張に乗れない読者には、結末の反転も効きにくい

読み返してみませんか。

仕掛けを知ってから読むと、同じ記述が別の意味で通ります。

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