仕掛けの要約【ネタバレ】
江戸時代の小藩を舞台に、江戸屋敷での密室の「でっち上げ」、国許でのわらべ歌になぞらえた首切り殺人、川に浮かぶ「館」での殺人が並行して描かれる、時代小説とミステリのパロディを兼ねた作品である。江戸の場面は、藩の御使番である藤島内侍之佑の一人称で語られ、語り手は自分を「俺」と称する。若い徒目付の静馬と組んで事件にあたる侍として、読者はこの語り手を男性だと受け取る。
結末で、内侍之佑が女性であることが明かされる。読者が男の侍二人の探偵行として読んできた江戸の場面は、男女の二人組の話として読み直されることになる。
作品にはこのほかにも、探偵役と犯人の関係をめぐる趣向がある。本項目では、語り手の性別の層を扱う。
騙しの技術
- 男性的な一人称で語らせる。 語り手は自分を「俺」と呼び、武家の役職に就いて捜査に動く。読者は代名詞と職分から男性を補完する。一人称の語りなので、語り手が自分の性別に触れないことは不自然にならない
- 時代と職分の知識に手がかりを預ける。 語り手の名にある「内侍」は、本来は宮中の女官に与えられる官名である。時代小説に通じた読者には手がかりになるが、そうでない読者には、侍の名乗りの一つとして読み流される
- 別の人物どうしの関係を、男色の話題として先に出しておく。 中盤、国許の人物二人の関係が衆道として取り沙汰される。のちに語り手と静馬が接近する場面が描かれても、読者はそれを同じ種類の関係として受け取り、性別を問い直さない
- 派手な趣向を前面に並べる。 密室の偽装、見立て殺人、時代考証を茶化す登場人物どうしのメタな会話、型破りな「読者への挑戦状」が次々に繰り出される。読者の注意はそちらに集まり、語り手が何者かという問いはそもそも立たない
フェアプレイの担保
- 語り手の名前が、女性の官名を含んでいる。後半にその官名についての説明も置かれている
- 語り手と静馬のやりとりには、真相を知ると男女の会話として読める場面があり、伏線として指摘されている
- 時代ものに詳しい読者なら冒頭で気づけるはずだ、と評されている。手がかりは最初から読者の前に出ていた
効き目
- 作品全体がパロディとメタな会話に満ちているため、驚きの多くは「次はどんなおふざけが来るか」という方向に向いている。その最後に、語り手そのものについての反転が来るので、読者は不意を突かれる
- 反転が明かされるのは事件がすべて片づいたあとで、後味を明るい方向に変える働きをしている。事件の重さを和らげる結末として受け止めた読者が多い
弱点・破綻しやすい点
- 手がかりの中心が時代の知識(官名・職制)にある。時代小説の読者には冒頭で透けうる一方、そうでない読者には事後に説明されるまで手がかりとして働かない
- 作中のある場面(結び方をめぐる描写)で仕掛けが透ける、という読者もいる
- メタな会話の挿入そのものを興ざめと見る評があり、仕掛け以前に作品の趣向が好みを分ける