仕掛けの要約【ネタバレ】
推理小説を愛好する若者たちの集まりが舞台になる。仲間の一人で「ナイルズ」と呼ばれる青年が、仲間たちを実名で登場させる推理小説を書くと宣言する。やがて仲間の一人が密室で死に、残った者たちは推理を競い合う。
読者は第一章を、この本が語る作中の現実として読む。仲間たちの宣言も、事件も、推理も、作者が地の文で差し出している本筋だと受け取る。
ところが第二章に入ると、第一章で読んだことは、ナイルズが書いている小説の一部だったことになる。第二章の世界にいる仲間たちは、第一章の内容をナイルズの原稿として読み、それを手がかりに自分たちの事件を推理する。原稿だと知らずに第一章を読んでいたのは、読者だけである。
この反転は以後の章でも繰り返され、奇数章の世界と偶数章の世界が、互いを作中の小説として扱い合う。どちらが作中の現実なのかは、作中でも公然と問われ、最後まで一つに決まらない。収録したのは、その全体ではなく、第一章を作中の現実と読ませ、第二章でそれが作中の原稿だったと反転させる層である。
層の分け方
| 層 | 読者の受け取り | 扱い |
|---|---|---|
| 第一章→第二章 | 第一章を作中の現実と読む。第二章で、それが作中の人物の書いた小説の一部だったと分かる。第二章の人物は原稿だと知っている | 叙述の層(収録) |
| 以後の章の反転 | 第二章以降、読者は章ごとに入れ替わる型を知っている | 同じ仕掛けの繰り返し。別の層にしない |
| どちらが現実か | 作中で公然と問われ、作中の人物も同じ問いを共有する | 作中の謎。収録の根拠にしない |
騙しの技術
- 作中作の始まりを示さない。 第一章は、作中の人物が書いた小説として差し出されない。地の文はふつうの本筋として始まり、読者は書き手を作者と取る
- 書くと宣言させて、書かれたものを読ませる。 作中の人物が実名の推理小説を書くと宣言する場面そのものが、第一章の中にある。読者はその宣言を作中の出来事として読み、自分が今読んでいるものがその小説だとは考えない
- 作中の人物には原稿として渡す。 第二章の世界の人物たちは、第一章を最初から原稿として扱う。同じ文章が、作中では原稿、読者にとっては本筋として受け取られる。経路が二つに分かれていて、取り違えるのは読者の側だけである
- 人物の描き方をずらしておく。 同じ名の人物が、奇数章と偶数章で少し違う人柄で描かれる、と指摘されている。書き手による脚色として読み直せる違いで、二つの世界が同じ一つの現実ではないことの手がかりにもなる
フェアプレイの担保
- 作中の人物が仲間を実名で登場させる小説を書くと宣言する場面は、第一章の中に置かれている。読者が読んでいるものがその小説でありうることは、最初から示されている
- 第一章の文章に嘘はない。作中の小説として読み直しても、書かれた場面はそのまま通る
- 二つの世界で同じ人物の描き方が違うことは、本文に書かれている
効き目
- 章をまたぐたびに、今まで何を読んでいたのか分からなくなる、という感想が多い。第一章から第二章への反転で、読者は本の中に本筋が一つしかないという前提を失う
- 一度型を知った読者も、以後の章で、どちらの世界を現実と見るかを決め直し続けることになる。作中の人物が過去の章を手がかりに推理するので、読者が読んだ文章そのものが、作中の推理の材料に変わる
- 作品は全体として、推理小説の約束事を疑う方向に開いていく。最初の反転は、その入口になっている
弱点・破綻しやすい点
- 反転が起きるのは、はっきり言えば第一章から第二章への一度で、以後は型の繰り返しになる。叙述の仕掛けとしての驚きは最初の反転に集中する
- どちらが現実かが最後まで決まらないので、確定した真相をもとに読み返す、という読み方はできない。驚きより混乱を受け取る読者もいる
- 章が変わるとどちらの世界の話かを示す書き方になっていて、混乱は少ない、と受け取る読者もいる。反転の効き方には幅がある
- 宗教・占星術・数理などの長い脱線が多く、仕掛けにたどりつく前に読み手を選ぶ