一覧 / 修羅の終わり

修羅の終わり

貫井徳郎 / 1997 / 小説

読者が誤認するもの

時間›時系列の誤認›並行
詳しい分類を見る
層メタ
叙述N-時間の並行
媒体固有T-共通/囮の仕掛け
効果E-同時に描かれる二つの場面は同じ時刻であるE-語られた世界は作品の現実

⚠️ このページは作品の核心(真相)に触れます。未読・未視聴の場合はご注意ください。

まだ読んでいない方へ。この下は真相に触れます。

先に作品にあたるなら、こちらから。

PR:本ページはアフィリエイト広告を含みます。

ミステリは“聴いて”楽しむこともできます(Audible 30日間無料体験)

仕掛けの要約【ネタバレ】

三人の視点人物の物語が章ごとに交互に語られる。交番を狙う連続爆破事件の背後の組織を探る公安の刑事、売春組織を独自に追う所轄の刑事、記憶を失って街に倒れていた青年の三つである。

二人の刑事の物語には、それぞれ年代を割り出せる目印が置かれている。公安刑事の物語は1970年代の初め、所轄刑事の物語はその約20年後の1990年代の初めにある。青年の物語にだけ年代の目印がない。読者は、交互に並ぶ三つの線が同じ時期に進んでいると受け取ったうえで、青年の線を後の時代の側、つまり所轄刑事の線と同じ頃に置いて読む。

実際には、青年の物語は公安刑事の物語と同じ時期にある。最後の1行で、青年が向かう相手が公安刑事その人だと分かり、二つの線が同じ年代に結ばれる。青年の正体も、公安刑事の線で起きた出来事の当事者の身内として、ここで位置が決まる。

騙しの技術

年代を二つだけ渡し、三つ目を書かない。 二人の刑事の物語は、年代を割り出せる目印を持つ。青年の物語は記憶喪失の一人称で、本人の過去も今がいつかも語らなくてよい立場にある。読者は二つの年代の間に置かれ、三つ目の線をどちらかに振り分けなければならない。その振り分けを、作者は書かずに読者に任せている。

交互配置で同時進行を印象づける。 三つの線が章ごとに入れ替わるので、読者は三つが並んで進んでいると受け取る。二人の刑事の線の年代がずれていることに気づいた読者も、残る青年の線を「どちらと同じか」の問いで処理し、同時ではない可能性を一段だけ下げて考える。

生まれ変わりの示唆を、時代の目印に使う。 青年の物語の中で、青年は昔の人物の生まれ変わりだという話を持ちかけられる。その人物の名は、公安刑事の物語に出てくる人物の名と、漢字一字だけが違う。読者がこの二人を結びつけると、青年は公安刑事の時代より後に生まれ直した者になり、後の時代の側に置かれる。作中の青年は公安刑事の物語を知らないので、この結びつけは名前を並べて読める読者の側にだけ起きる。

囮の線を一本立てる。 所轄刑事の物語は、他の二本とのつながりが最後まで明確にならない。読者が三本のつながりを探すほど、所轄刑事の線は青年の線と同じ時代にあって何かでつながるはずだという読みが強まる。

フェアプレイの担保

  • 年代の手がかりは本文に置かれている。所轄刑事の物語には人物の生年と年齢から年が割り出せる記述があり、公安刑事の物語には同時代の報道が出てくる
  • 青年の物語には、後の時代を示す日用品(所轄刑事の物語では普通に使われている携帯電話など)が出てこない。この不在に気づいて、早い段階で青年の線を前の時代に置いた読者もいる
  • 生まれ変わりとされる人物の名と、公安刑事の物語の人物の名は、漢字の表記が違う。同一人物ではないことは字面で区別できる
  • 三つの線が同時に進んでいると述べる記述はない。交互配置は形式にとどまる

効き目

  • 二つの線の年代のずれに気づいた読者にも効く。ずれに気づいた時点で読者は「残る一本はどちらと同じか」を問い、その問いに答えたことで安心する。仕掛けは二段目の振り分けのほうに置かれている
  • 最後の1行が、青年の線の年代と、青年の動機の両方を同時に確定させる。年代が決まった瞬間に、青年の物語の意味が公安刑事の物語の出来事へつながる
  • 同じ作者の 慟哭 と同じく、交互に語られる線の時期をずらす型だが、線を三本にして、年代を明かす線と明かさない線を混ぜた点で、型の変奏になっている

弱点・破綻しやすい点

  • 囮の線が回収されない。 所轄刑事の物語が他の二本と結びつかない、あるいは結びつきが読み取れないという不満が複数の読者に共通する。三本のつながりを探させる構成のため、つながらない一本が残ると、仕掛けの全体が未完成に見える
  • 決め手が最後の1行に集中している。 つながりは最後の1行を読み解くことで初めて見え、読み落とすと何も分からずに終わる。解説や考察を読んで構図をつかんだという読者が少なくない。仕掛けが受け手に届く経路が細い
  • 目印の不在が透ける。 後の時代の日用品が一方の線にだけ出てこないため、時代の差に敏感な読者には早く見抜かれる。手がかりの量と隠す仕掛けの強度の釣り合いが、読者の注意の向け方しだいで崩れる
  • 三つの物語のつながり方の細部(青年の線の後日譚や、所轄刑事の線との関係)については、読者の間で解釈が分かれる

読み返してみませんか。

仕掛けを知ってから読むと、同じ記述が別の意味で通ります。

関連する型慟哭ラッシュライフ交換殺人には向かない夜

← 一覧に戻る