仕掛けの要約【ネタバレ】
物語は三つのパートを交互に切り替えて進む。依頼人の夫の不倫を調べるため、使用人を装って山奥の邸に入り込む探偵と大家のパート。ガールフレンドに誘われ、その友人である女優の山荘を訪れる探偵の弟子のパート。そして、街中で刺殺された上品な身なりの女性の事件を追う、女性刑事と後輩刑事のパートである。題名と冒頭が交換殺人を予告しているため、読者は三つのパートを、大雪の同じ一夜に並行して起きている出来事として読み、その裏で誰と誰が殺人を交換するのかを追う。
実際には、刑事たちのパートだけが三年前の出来事である。前の二つのパートは確かに同じ夜の話だが、三つ目は時間が離れている。
この時間のずれが、人物の誤認を二つ支えている。
- 探偵の依頼人である邸の夫人、弟子が訪れた山荘の女優、三年前の事件を追う女性刑事——読者が三人と数えたこの女性たちは、同じ一人の女性である。時期と相手によって、別の名で現れているにすぎない
- 三年前に刺殺された女性は「画家の妻」であり、読者は同時進行の前提から、これを探偵の依頼人である現在の夫人と結びつける。実際の被害者は同じ画家の、当時の妻であり、依頼人とは別人である
騙しの技術
- 同じ夜であることを、三本のうち二本で本当にする。 探偵のパートと弟子のパートは実際に同じ雪の日の出来事で、記録的な大雪が両方で語られる。刑事のパートでも大雪が語られるため、読者は三本目も同じ夜だと受け取る。前提の大部分が事実なので、残りの一本だけが疑われない
- 題名が別の仕掛けへ注意を向ける。 交換殺人であることは題名で公然と告げられている。読者は「誰と誰が交換したのか」を推理することに集中し、パートどうしの時間の関係はそもそも問いにならない
- 一人の人物を、パートごとに別の名で呼ぶ。 刑事のパートでは姓で、邸のパートでは夫人として、山荘のパートでは女優の名で書かれる。どの呼び名もその場面では正しい。名が違えば別人だと読む習慣が、三人を一人に戻させない
- 被害者を、名でなく立場で示す。 刺殺された女性は身なりや立場から描かれ、「画家の妻」という事実が読者の側で現在の夫人に結びつく。記述そのものは三年前の事実として正しい
フェアプレイの担保
- 刑事のパートの女性刑事と山荘の女優は、どちらも一人称に「オレ」を使い、男勝りの口調で話す。複数の読者が、二人の口調が似ていることに気づいていたと振り返っている
- 女優が、自分は昔も今もずっと演じる側の人間だという趣旨の台詞を口にする場面があり、同一人物の可能性を示す手がかりとして挙げられている
- 真相が明かされたあとで読み返すと、刑事のパートの出来事はすべて三年前の出来事として通る
効き目
- 交換殺人を題名で明かしているので、読者は「自分はもう仕掛けの種類を知っている」という安心の中で読む。そのため、別の層に置かれた時間の仕掛けに対して無防備になる
- 時間のずれが明かされると、一人三役と被害者の取り違えが連鎖して同時に解ける。一つの前提が崩れるだけで、三つの誤認が一度に反転する
- ユーモアの多い軽い語り口が、細部を検討しながら読む姿勢を緩める、と評する読者がいる
弱点・破綻しやすい点
- 一人三役のうち二役(女優と女性刑事)は、口調と性格が似ているため見当がつきやすい。ここに気づいた読者がいる一方、時間のずれまでは見抜けなかったという感想が多い
- 文庫の新しい版の表紙に描かれた女性の絵が真相を示している、と振り返る読者が複数いる。作品本体の外にある図像が、仕掛けを先に明かしてしまいうる
- 被害者が誰であったかが明かされたとき、その人物の存在感が薄く、意外性より戸惑いが残ったという評がある
- 一人三役は交換殺人そのものの手段ではないため、二つの仕掛けが噛み合っていないと感じる読者もいる。仕掛けを重ねて複雑にしすぎている、という評もある