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その女アレックス

ピエール・ルメートル / 2011 / 小説

読者が誤認するもの

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層メタ
叙述N-人物の属性
効果E-被害者は被害者E-犯人の内心は描かれない

⚠️ このページは作品の核心(真相)に触れます。未読・未視聴の場合はご注意ください。

まだ読んでいない方へ。この下は真相に触れます。

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仕掛けの要約【ネタバレ】

三十歳の女性アレックスが誘拐され、廃屋で木の檻に吊るされる。物語は、監禁された彼女の側の章と、事件を追う警部カミーユ・ヴェルーヴェンの側の章を交互に進む。

読者は、アレックスの章で彼女の恐怖と苦痛を内側から追い、彼女を理由もなく狙われた被害者として受け取る。物語の型も、妻を誘拐で失った警部が今度こそ女性を救えるか、という救出劇の形をとる。

実際には、彼女はすでに複数の人間を殺している。誘拐犯は、彼女に殺された若者の父親だった。彼女は監禁中に男が誰の父親かを悟っており、自分が何をしたかも知っている。しかし彼女の章は、そのことを語らない。真相は警察が若者の死体を見つけることで明るみに出て、第2部では彼女の側の章が、殺人者としての彼女を描く。

作品は三部構成で、どの部でも彼女の見え方が変わる。収録したのは第1部の層、すなわち内面を追ってきた被害者が、実は殺人者だったという反転である。第2部の動機の謎と、第3部の結末の偽装は叙述の層ではない(下の「層の分け方」)。

層の分け方

層読者の受け取り扱い
第1部:被害者か加害者か彼女の内面を追う章が、彼女の知っていることを語らない。読者は内面を見せられた人物を、ただの被害者と読む叙述の層(収録)
第2部:なぜ殺すのか動機は作中でも読者にとっても、はっきり問いとして立っている。答えは第3部で、警察の捜査が手記・検視・取り調べから明らかにする作中で立てられ、作中で解かれる謎
第3部:彼女の死自殺であることは読者に描かれる。偽装に欺かれるのは作中の人物で、警部もそれを見抜く作中トリック

騙しの技術

  • 内面を見せ、知っていることを見せない。 アレックスの章は三人称で、彼女の思考と感覚にぴったり寄り添う。恐怖・痛み・絶望は詳しく書かれるので、読者は彼女に共感する。一方で、過去に何をしたか、なぜ自分が狙われたのかについての彼女の考えは書かれない
  • 悟ったことを、悟ったとだけ書く。 監禁中、彼女は男が誰かに気づく。男が誰の父親かは示される。その若者と彼女のあいだに何があったかは、捜査側の章が若者の死体を見つけるまで読者に渡らない
  • 内面が描かれた人物は犯人ではない、という読み方に寄りかかる。 犯罪小説では、殺人者の内面をそのまま見せることは少ない。内側から描かれる人物を、読者は事件の外にいる者として扱う
  • 救出劇の型を前に出す。 警部の側の章は、過去に妻を救えなかった警部が、今度は女性を救おうとする筋として進む。読者は女性の解放とヒーローの到着を待つ側に置かれる
  • 作者は、彼女が無実だとは一度も書いていない。書かれているのは、彼女が監禁され、苦しんでいることだけである

フェアプレイの担保

  • 冒頭近く、誘拐の前の彼女が、かつらを試し、違う名前と見た目を使い分ける場面がある。見た目どおりの人物ではないことを示す、最初の手がかりとされる
  • 捜査側の章で、警部は被害者のはずの彼女に違和感を持つ
  • 監禁中に男の正体を悟る場面は、彼女と男のあいだに、読者の知らない関係があることを示している
  • 第3部まで読むと、それまでの彼女の行動の意味が分かる、とする評がある。読み直して、彼女は最初から死ぬつもりだったと受け取り直した感想や、最後のホテルの場面を読み直した感想もある

効き目

  • 内面に寄り添う書き方が強いほど、読者は彼女に同情する。その同情が深いところで、彼女が殺人者だと分かるので、反転は読者の感情そのものを裏返す。同情していたのが逆の感情に変わった、という感想が多い
  • 反転は作品の早い段階(第1部の終わり)で起き、そこから作品の型が、救出劇から連続殺人者の追跡へと変わる。この反転で、それまでの章が序章だったことになる
  • 第3部で彼女の過去が明かされると、彼女は再び被害者の位置に戻る。被害者から加害者へ、加害者から被害者へ、と見え方が二度変わる

弱点・破綻しやすい点

  • 彼女の主観で進む章で、肝心のことが最後まで隠されているのは不自然だ、という批判がある。主観で進めながら主人公の肝心なことを読者に隠すのは無理がある、という指摘である。他方、彼女の感情をあまり詳しく描かず、最後に過去を一気に明かすことで想像させる点を評価する読者もいて、受け止め方は割れている
  • 推理を期待して読むと、第3部の真相(過去の被害と動機)は後から出された事実に見える、という感想がある。第3部の驚きは叙述ではなく捜査による暴露で、叙述の仕掛けを期待する読者には肩すかしになりうる

読み返してみませんか。

仕掛けを知ってから読むと、同じ記述が別の意味で通ります。

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