仕掛けの要約【ネタバレ】
架空の技術で生まれた小型飛行船〈ジェリーフィッシュ〉が普及した1980年代の世界。新型機の開発メンバー六人が試験飛行に出るが、航行中に一人が死に、自動航行が狂って艇は雪山に不時着する。閉ざされた艇内で、残った者が一人ずつ殺されていく。のちに焼けた艇の中から六人全員の他殺体が見つかり、二人の刑事が捜査にあたる。物語は、艇内で事件が進む章と、事件のあとの捜査の章を交互に置き、その合間に犯人と思われる人物の過去の独白をはさむ。
仕掛けは二つの層にある。
艇の層。 読者は、艇内の章で起きていることを、すべて一隻の艇の中の出来事として読む。実際には、ジェリーフィッシュは二機あり、メンバーは二機に分かれて航行していた。艇内の章の視点人物はそのことを知っているが、章の中で二機であることは語られない。一隻だと読んでいたものが、二つの場所だった。
死者の層。 読者は、艇の乗員を物語の冒頭に置かれた計画の文書で知る。そこに載っている六人が乗り込み、六人が死んだと読む。実際には、捜査側が持つ公式の記録とこの文書とでは顔ぶれが一人違い、見つかった死体の一つは乗員ではなく、事前に殺されていた別の人物のものだった。死んだと読んだ人物の一人が生き延び、犯人として艇から姿を消していた。
騙しの技術
- 視点人物が知っていることを、章の中で口にさせない。 艇内の章は、二機で比較の試験をしていると知らされているメンバーの視点で進む。それでも、会話にも地の文にも、もう一機のことは出てこない。読者は、視点人物の見ているものが艇の全部だと受け取る
- 一隻に見える書き方をする。 三つしかない部屋で全員が夜を明かすように読める書き方や、別の艇との無線の会話を、同じ艇の中の連絡のように見せる書き方が、一隻という読みを支える。描かれるのは一方の艇だけである
- 計画の文書を先に渡す。 冒頭に置かれた計画の文書が、読者に乗員の顔ぶれを先に教える。捜査の章で刑事たちが使う記録とは別のもので、読者だけがこの顔ぶれを前提に読み進める
- 死を、目撃した人物の受け取りで書く。 艇内の死体の一つは、視点人物の目に、ある乗員の死体として映る。読者も同じものを見せられ、その乗員が死んだと受け取る。こちらは作中の犯人が仕組んだ死体の偽装で、視点人物と読者が同じ経路で欺かれている
- 捜査の章では、答えが一度退けられる。 捜査の途中で、艇が二機あったという仮説が出されて否定され、のちに別の筋から真相として浮かび上がる
フェアプレイの担保
- 二機で比較の試験をしていることを示す語は、本文に出ている。その語で真相に気づいたという読者がいる
- 同じ艇にいるはずの人物どうしが無線で話していることに、違和感を覚えたという読者が複数いる
- 部屋の数と人数が合わないこと、使われていない寝台、艇の外に出た痕跡(雪や濡れた髪)が手がかりとして挙げられている
- 首と手足を切断された死体が一つだけあり、身元の入れ替えを疑わせる。この点から犯人を早く見抜いたという読者は多い
効き目
- 死体の入れ替えは早く見抜かれやすいが、見抜いた読者にも、閉ざされた艇から犯人がどう消えたかという問いが残る。二機の層は、その問いの答えとして効く
- 二機だったと分かると、一隻で起きたと読んでいた艇内の場面の位置関係が組み替わる。一機で六人ではなく、二機に分かれた六人だった、という読み替えに驚いたという感想が多い
- 犯人の名と素性は最後まで明かされず、結末は、犯人が何者なのかを問う一言で閉じられる
弱点・破綻しやすい点
- 二機あることを、知っている人物どうしが普通の会話で一度も口にしないのは不自然だ、という指摘がある。一方の艇だけを描く書き方を、あざといと受け取る評もある
- 冒頭の計画の文書は、作中にそのまま存在するものとして納得しにくく、アンフェアだとする評がある
- 死体の入れ替えは、切断された死体と、似た構成の先行作から見抜かれやすい。犯人の当てやすさは多くの評が挙げている
- 交互の章で二つの場所を描く構成が先行作に似ていて、既視感を述べる評がある