仕掛けの要約【ネタバレ】
刑事のコンビが、希少動植物の密売ルートを追って、不動産王が所有する超高層タワーを訪ねる。不動産王は最上階の邸宅で、「硝子鳥(グラスバード)」と呼ばれる秘蔵の生き物をはじめ、珍しい動物を飼っていると噂されている。刑事の一人はタワーの爆破テロに巻き込まれる。同じ頃、不動産王のガラス製造会社の関係者たちが、窓のないガラス張りの迷宮に監禁され、一人ずつ殺されていく。物語はタワーの章と迷宮の章を交互に進む。
仕掛けは二つの層にある。
硝子鳥の層。 読者は硝子鳥を、その名のとおり鳥の一種として読む。シリーズの世界では、現実にはない人工の産物が実在することが前の作品で示されているので、ガラスのように美しい鳥がいても読者は疑わない。実際には、硝子鳥と呼ばれていたのは人間である。不動産王は人を戸籍の外に置き、愛玩動物として飼っていた。作中で硝子鳥に惹かれていく人物の思いも、鳥への執着ではなく一人の女性への恋だったことになる。
場所の層。 読者は、関係者たちが監禁された迷宮をタワーの最上階にあるものとして読む。関係者たちはタワーの最上階で意識を失い、目覚めると迷宮にいたからであり、タワーの章で最上階に死体が見つかると、迷宮の殺人と同じ現場のことだと受け取る。実際には、迷宮での殺人はタワーとは別の場所で起きていた。似た構造の場所が二つあり、読者はそれを一つの現場として読んでいた。
騙しの技術
- 作中で付いた呼び名をそのまま使う。 硝子鳥という名は、作者が読者に向けて付けたものではなく、作中で飼い主の側が付け、噂として広まった呼び名である。名が鳥を含意するので、読者は呼び名から生き物の種類を補う
- シリーズの前提を使う。 同じシリーズで現実にない技術や生物が実在したことを知っている読者ほど、硝子鳥も同じ種類の架空の産物だと受け取り、正体を問わない
- 知っている人物の側から、鳥に寄せて書く。 硝子鳥を直接見ている人物の場面や、その人物が書いた記録の中で、硝子鳥は鳥を思わせる言葉で語られる。記録の書き手は相手が何者かを知っている
- 章を交互に置き、時刻をそろえる。 タワーの章と迷宮の章に年月日と時刻を示し、二つが同時に進んでいることを保証する
- 二つの章をつなぐように見える場面を置く。 タワーの章で、閉ざされた扉の向こうで誰かが死んでいく場面がある。読者はこれを迷宮の殺人と同じ現場の出来事として受け取りやすい
フェアプレイの担保
- 登場人物の台詞の中で、硝子鳥として扱われている人物の名が「彼女」と結びつけて呼ばれている。生き物として描かれている相手を人のように呼んでいることに、違和感を覚えたという読者が別々の場で複数いる
- 硝子鳥への執着が繰り返し強調されることから、序盤で正体に気づいたという読者は少なくない
- 物語の後半、探偵役は作中の記録の記述から硝子鳥の正体を推理して示す
効き目
- 正体が分かった時点で、それまで何気なく読んでいた硝子鳥をめぐる場面が、人を飼うという非道の記録に変わる。驚きよりも、自分も相手を人として見ていなかったことへの戦慄を語る感想が多い
- 題名の意味は、結末に至って明らかになる
- 硝子鳥の層と場所の層が組み合わされ、最上階の死者が誰なのかという問いにも結びついている
弱点・破綻しやすい点
- 硝子鳥の書き方が鳥に寄りすぎていて、叙述として認めがたい、フェアでないとする評が多い。逆に、強調されすぎていて人間だと早く見抜けたという評も多く、評価が割れている
- 飼われている人物を記録の中で「鳥」と書くこと自体が不自然だ、という指摘がある
- 同じシリーズの作品を読んだ読者には、二つの場所を交互に描く構成そのものが既視の型に見え、現場が別であることを早く疑われやすい
- 作中の架空の技術(透明になる布など)が別の謎の答えにも使われており、そちらへの不満が叙述の層の評価にも影を落としている