仕掛けの要約【ネタバレ】
記憶を失った人物が書いた手記を、現在の登場人物たちが追う——という二重の構成をとる。
読者は手記に書かれた出来事を、現在の登場人物たちが訪れている場所と同じ土地の話として読む。
実際にはまったく別の場所であり、地球上の反対側にあたる。
場所が違えば、季節も、日の高さも、時間の感覚もすべて反転する。
手記の記述は正確だが、読者はそれを自分の常識が通じる土地の描写として読んでいる。
その一点がずれているために、成立しないはずのことが成立する。
騙しの技術
土地を明示しない。
手記は場所を特定する記述を避けて書かれている。
読者はとくに断りがなければ身近な土地の話だと補って読む。
これは書かれていないことを読者が埋めているのであって、記述に嘘はない。
手記という形式で、視点を限定する。
書き手の見たものしか書かれないため、書かれていない情報があっても不自然でない。
記憶を失っているという設定が、記述の不完全さをさらに正当化する。
自然な情景描写に、成立しない要素を混ぜる。
季節・気候・時刻に関する記述が、読者の想定する土地では科学的に成り立たない。
しかし情景描写として自然に読めるため、検算されない。
フェアプレイの担保
- 手記の記述そのものは正確であり、別の土地として読み直すと矛盾なく通る
- 読者の想定と食い違う要素が繰り返し置かれている(気候・時刻・数値に関する記述)
- 伏線の回収が丁寧であるという評価が複数ある
効き目
- 場所という、読者が最も無自覚に補う情報を標的にしている
- 場所が変われば時間の条件も変わるため、一つの誤認から複数の不可能状況が生まれる
- 真相を知ると、情景描写が全部読み直せる
弱点・破綻しやすい点
- 気候や時刻の記述に敏感な読者には、早い段階で違和感が出る
- 場所を明示しない記述を続ける必要があり、書き方の制約が大きい
- 手記という枠に依存するため、同じ手を地の文では使いにくい