仕掛けの要約【ネタバレ】
入れ子構造の中で、二種類の誤認が同時に走る。
本編にあたる部分は作中で誰かが読んでいる小説であり、
さらにその中で作家たちが小説を競作している。三層構造になっている。
その上で読者は二つを誤認する。
- ある人物の性別。男性として読まれる人物が、実は女性である
- 冒頭に現れる人物の正体。読者はそれをシリーズの常連だと当然のように読むが、別人である
騙しの技術
シリーズの常連という期待を、作中に何も書かずに利用する。
連作を追ってきた読者は、その名を見た瞬間に前作までの人物像を当てはめる。
作品の外側にある読者の記憶が、誤認の土台になる。
本文は嘘をついていない——ただ、読者が勝手に補っている。
性別を確定させる語を使わない。
呼称は敬称のみで統一され、性別を断定する記述が置かれない。
嗜好や振る舞いも、どちらとも取れる範囲に収められている。
作中作という枠が、書き方の不自然さを引き受ける。
本編が「作中で書かれた小説」であるため、
描写の作為性が書き手の文体の問題として処理される。
仕掛けのための不自然さが、入れ子構造によって正当化されている。
フェアプレイの担保
- 性別を断定する記述は一箇所もない。読み返すと男性だと確定できる箇所が存在しない
- 部屋の名づけなど、真相を示す手がかりが配置されているという指摘がある
- 作中作という構造はプロローグとエピローグで明示されており、隠されていない
- 終盤に推理を検討する場面が置かれ、フェアかどうかの議論自体が作中で扱われる
効き目
- 入れ子構造そのものが、叙述の作為性を隠す装置になっている
- シリーズを追ってきた読者ほど強く騙される。読者の蓄積が弱点として使われる
- 二種類の誤認が別の層で走るため、片方に気づいてももう片方が残る
弱点・破綻しやすい点
- シリーズを読んでいない読者には、常連をめぐる仕掛けが働かない
- 性別を伏せる手法は既知の型であり、警戒した読者には呼称の統一が不自然に映る
- 入れ子構造が複雑で、関係を把握しそこねると仕掛けが伝わらないという評がある