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殺人者の記憶法

キム・ヨンハ / 2013 / 小説

読者が誤認するもの

人物›人物の誤認›XをY
現実と非現実›現実だと思ったら非現実
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層メタ
叙述N-人物の同一と別
媒体固有T-共通/語り手の信頼性T-小説/記録という体裁
効果E-語り手は正しく知覚しているE-同じ名前=同じ人物

⚠️ このページは作品の核心(真相)に触れます。未読・未視聴の場合はご注意ください。

まだ読んでいない方へ。この下は真相に触れます。

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仕掛けの要約【ネタバレ】

本文は、アルツハイマー病を患う七十歳の元連続殺人犯が、消えていく記憶を留めるために書きつける短い記録の連なりである。語り手は冒頭から自分が人を殺してきたことを隠さず、病のせいで記憶が当てにならないことも自分で書く。そのうえで語り手は、かつて殺した夫婦の娘を引き取って育ててきたと語り、いま一緒に暮らすその娘が、近所に現れた若い男に狙われていると確信して、娘を守るための最後の殺人を準備する。

読者は、語り手の記憶がところどころ崩れることは承知しながらも、語りの骨組み、つまり同居する若い女性が語り手の育てた娘であること、若い男が新たな殺人者であることは事実として受け取って読む。

終盤でこの骨組みが崩れる。若い男は語り手を追っていた警察の側の人間であり、娘だと思われていた女性は語り手の世話をしに来ていた介護の仕事の人だった。引き取ったはずの幼い娘は、両親が殺されたときにすでに命を落としており、同居していた女性はたまたま同じ名前を持つ別人である。語り手が育てた娘は、物語の現在には一度も登場していなかったことになる。

終盤では、その女性が殺され、語り手が犯人として調べられる。手にかけたのが語り手自身なのか、語り手は罪を着せられただけなのかについては、読みが分かれている。語り手を訪ねてくる刑事の一人が実在しなかったとする読みもある。

騙しの技術

  • 記憶障害を最初から明かしておく。 語り手が自分の病を冒頭から書くため、読者は「この語り手の記憶は抜け落ちる」ことを前提に読む。警戒は、日付の取り違えや同じ話の繰り返しといった、病の症状として目に見える崩れに向かう。崩れが目立つほど、崩れていない部分、とくに誰と暮らしているかという生活の土台は確かなものとして残る
  • 偽の前提をはっきり書く。 娘を引き取ったという来歴は、ぼかされているのではなく、序盤に語り手自身の言葉で具体的に与えられる。読者の補完に任せるのではなく、語り手の確信として積極的に置かれている
  • 同じ名前を使う。 同居する女性と、かつての幼い娘は同じ名前で呼ばれる。名前が一致しているので、読者は二人を一人の人物の成長前と成長後として結びつける。本当の娘は物語の現在に登場しないため、取り違えを確かめる機会がない
  • 記録という体裁。 本文は語り手自身が書いた断片的な記録であり、地の文が客観的な事実を保証する場所がない。作者は嘘を書いておらず、書かれているのは語り手が信じていることである
  • 語り手の確信を物語の推進力にする。 若い男が殺人者だという確信は、語り手が最後の殺人を準備する動機そのものである。読者は筋を追うために、その確信を共有せざるをえない

フェアプレイの担保

  • 語り手が信頼できないことは、病の告白として冒頭から読者に知らされている。仕掛けの存在を隠しているのではなく、仕掛けがどこまで及ぶかを隠している
  • 同居する女性は語り手よりはるかに若く、周囲の人の目には娘というより孫ほどの年に見える。また彼女は語り手の身の回りの世話をしている
  • 語り手の身の回りの小さな事実について、作中の人物どうしの言うことが食い違う場面があり、語り手の見ている世界が現実と一致していない可能性が途中で示されていると読む評がある
  • 読み終えたら最初に戻って、どこまでが語り手の想像でどこからが実際の出来事かを選り分けなおす必要がある、と論じる批評がある

効き目

  • 反転が、ある一点の事実の訂正ではなく、語りの骨組みの連鎖的な崩壊として起きる。娘、狙う男、守るための殺人という物語の中心がまとめて別物になる
  • 本当の娘が物語の現在に一度も登場していなかったと分かると、語り手が語ってきた「娘との暮らし」そのものが、過去の殺人から目を背けるために作られたものだったという読みが立ち上がる。仕掛けがそのまま主題、つまり罪と記憶の関係に接続している
  • 冷酷で反省しない殺人者の独白として読んでいたものが、再読すると、自分の罪に耐えられずに想像の中へ逃げ込んだ人物の話として読めるようになる、という評がある
  • 読み終えた時点で、読者は語り手と同じく、何が事実だったのかを確定できない場所に置かれる

弱点・破綻しやすい点

  • 語り手が認知症であると最初に告げているため、「最後に語り手の認識がひっくり返る」こと自体は予想されやすい。反転ははっきりしているが驚きは少なかった、ラストは予想がついた、夢オチのような展開が見えていた、という評がある
  • 記憶障害は何でも説明できてしまうため、真相の側が確定しない。誰が女性を殺したのか、どの人物が実在したのかについて評者のあいだでも読みが割れており、「結局どこまでが妄想か」を読者が決めきれないことを不満とする声もある
  • 本文が短い断片の積み重ねで、終盤は語り手の意識の崩壊とともに文章も崩れていくため、反転の中身そのものを読み取れなかった、何が何だかよく分からなかった、という読者もいる

読み返してみませんか。

仕掛けを知ってから読むと、同じ記述が別の意味で通ります。

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