仕掛けの要約【ネタバレ】
同じ作者の作品群に共通する型が、最も濃く詰め込まれた作品。
仕掛けが一つではなく、四つ重なっている。
- 時間のずれ:交互に語られる二つの視点のあいだに一年の隔たりがある
- 一人二役:一方の視点に現れる女性は本人ではなく、母親が娘を演じている
- 語り手の状態:もう一方の視点人物は現実と妄想の区別がついていない
- 語りの階層:物語全体が、別の人物によって書かれた小説だった
読者は交互配置から二つの視点を同時進行だと読み、
記述された行動を実際に起きたことだと読み、
記録に現れる人物をその名の持ち主だと読む。そのすべてが外れる。
騙しの技術
交互配置で、同時進行だと思わせる。
二つの視点を行き来する形式が、両者が同じ時間を共有しているという印象を作る。
形式は時間関係を主張していないが、読者が補ってしまう。
記録という体裁で、人物を差し替える。
片方の視点は日記という形をとる。
書き手が本人であるという保証は、形式の中にはない。
語り手の状態を、性格の描写として置く。
妄想と現実の区別がつかないことは、執着の強い人物像として読める形で書かれている。
読者はそれを人物造形として処理し、記述の信頼性の問題としては扱わない。
最も外側に、もう一つの層を置く。
全体が作中で書かれたものだったという枠が最後に現れる。
どこまでが「起きたこと」なのかが、最終的に確定しない。
フェアプレイの担保
- 年齢を示す描写(実際より老けて見える、という記述)が置かれている
- 衣服の矛盾など、一人二役を示す食い違いが配置されている
- 語り手の妄想を示す矛盾も本文に置かれている
効き目
- 四つの仕掛けが順に外れるため、一度騙されたと思ったあとにさらに落ちる
- 覗く/覗かれるという主題と、読者が覗いている構図が重なっている
- 最も外側の層により、読み終えても確定しない余韻が残る
弱点・破綻しやすい点
- 仕掛けを詰め込みすぎているため、フェアかどうかについて議論がある
- 層が多く、構造を把握しそこねると何が起きたのか分からない
- 結末が確定しないため、解決を求める読者には不満が残る