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近畿地方のある場所について

背筋 / 2023 / 小説

読者が誤認するもの

人物›人物の属性›性別
人物›人物の誤認›一人を複数
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層メタ
叙述N-人物の属性N-人物の同一と別N-語り手の正体
媒体固有T-小説/一人称の空白T-小説/記録という体裁T-小説/章題と目次T-共通/語り手の信頼性
効果E-語り手は自分の行為を知っているE-語り手は正直

⚠️ このページは作品の核心(真相)に触れます。未読・未視聴の場合はご注意ください。

まだ読んでいない方へ。この下は真相に触れます。

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仕掛けの要約【ネタバレ】

対象はカクヨム連載版(2023年)と、それを書籍化した単行本(2023年)である。 2025年の文庫版は人物の配置と結末が書き換えられた別稿であり、映画版も筋が異なるため、ここでは扱わない。

作品は、ライターの「私」が、行方不明になった若い編集者の友人の情報を求めて、彼が集めていた雑誌記事・投稿・掲示板の書き込み・インタビュー記録などを公開する、という体裁をとる。資料の合間に「私」自身の章が挟まり、友人と二人で資料を読み解いた経緯が語られる。

「私」は冒頭の自己紹介で、筆名、職業、経歴、友人との年齢差までを詳しく語るが、自分の性別には触れない。読者はこの一人称の語り手を、とくに理由もなく男性として思い描く。

収録資料の一つに、2000年の雑誌に載ったカルト教団への潜入記事がある。編集部が「女性ライター」に依頼したと前置きされ、本文はその女性ライターの一人称で書かれている。読者はこれを、語り手とは別の、昔の記者の書いた資料として読む。

真相——その潜入記事の書き手は「私」本人だった。 友人が記事の署名を示して問いただし、「私」は自分が女性であることをここで初めて口にする。「私」は当時の取材の記憶を失っており、自分が書いたことを知らなかった。読者が二人と数えていた「語り手」と「昔の女性記者」は一人である。

あわせて、最終章で呼びかけそのものの意味が反転する。友人は既に死んでおり、「私」はそれを知りながら捜索を装って資料を広めていた。冒頭で頼まれた「協力」とは、情報の提供ではなく、読者がこの文章を読むことだったと明かされる。

騙しの技術

  • 一人称の自己紹介から性別だけを抜く。 経歴・年齢・交友関係は丁寧に語られるので、語られていない項目があることに気づきにくい。空白は、ライターという職業から読者が補う
  • 性別の空白が、同一性の判定を止める。 潜入記事の書き手は「女性ライター」と明記されている。語り手が男性だと思い込んでいる読者には、この一語が「語り手とは別人」の印として働く。性別の誤認そのものよりも、性別の誤認が人物の同一性を隠す鍵になっている点がこの作品の特徴である
  • 資料集という体裁を使う。 収録される文章はすべて他人の書いたものだと冒頭で断られている。過去の雑誌記事の一人称は、編者である語り手とは別の書き手の一人称として読まれる。二つの「私」が同じ人物である可能性は、体裁の側から閉じられている
  • 語り手自身が知らない。 語り手は記憶を失っており、記事を自分が書いたとは思っていない。語り手は嘘をついていないが、読者に正しい情報を渡すこともできない
  • 同じ題の章を繰り返す。 表題と同じ題の章が、終盤で何度も「これでお終いです」と閉じられ、そのたびに少しずつ違う内容で再開する。読者は単なる不気味な演出として読むが、最終章で、これが語り手が途中で終わらせようとして果たせなかった跡であったと説明される
  • 呼びかけの文言を二重に読ませる。 冒頭で語り手が読者に求める「協力」は、友人の情報提供として受け取られる。最終章を読むと、同じ文言が「読むこと」そのものを指していたことになる。ただしこの層は、語り手が友人の捜索について明示的に偽りを書いていることで成り立っている

フェアプレイの担保

  • 冒頭の自己紹介は性別について何も述べておらず、男性であるという記述は置かれていない
  • 潜入記事の書き手は、記事の中で教団の女性信者に強く感情移入し、取材を忘れて声をかけてしまう。体調を崩して入院したことも記事に書かれている。どちらも、後の章で明かされる語り手の過去(子を亡くしていたこと、入院していた記憶があること)と対応している
  • 潜入記事は、真相が明かされる章の直前に置かれている
  • 友人の捜索が偽りであることは、最終章より前に、繰り返される章の一つで「嘘をついてしまって」という詫びとして先に漏れている

効き目

  • 性別が明かされた瞬間、それまで別人の資料として読んでいた記事が語り手の過去の記録に変わり、さらにその記録が怪異の性質(どの女性が狙われ、どの女性が助かるのか)の手がかりにもなる。一つの空白が、人物の同定と怪異の謎の両方に効いている
  • 資料の寄せ集めという、もともと書き手がばらばらであることが当然の形式なので、一人称の書き手が複数いることに違和感が生じない
  • 語り手を男性と思い込んでいた、という読者の反応が実際に見られる。音声版を男性の声で聴いていた読者が、終盤で戸惑ったという例もある

弱点・破綻しやすい点

  • 資料が時系列も書き手もばらばらに並ぶため、潜入記事と語り手の結びつきを読み流してしまう読者がいる。最後の展開が「よく分からなかった」という感想は少なくない。仕掛けの効き目が、読者がそれまでの資料をどれだけ覚えているかに強く左右される
  • 呼びかけの意味が反転する層は、語り手が捜索について明示的に偽りを書いていることに依存しており、記述の読み替えというより、語り手の告白による種明かしに近い。この層を叙述の仕掛けと見るかどうかは評価が分かれうる
  • 「読んだ者も呪いに巻き込まれる」という結末の型そのものは、この種のホラーではよく知られており、予想できたという評もある

読み返してみませんか。

仕掛けを知ってから読むと、同じ記述が別の意味で通ります。

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