仕掛けの要約【ネタバレ】
語り手の名が、この本の著者名と同じである。
語り手は、ある新人賞に奇妙な原稿が投稿されていると友人から聞かされる。
その応募者の名は、語り手自身の名だった。
本人には身に覚えがない。
やがて語り手は洋館を見つけ、そこで怪奇小説を書き始める。
語り手が書いている小説と、語り手の現実とが、次第に混ざっていく。
読者は本を開いた時点で、表紙の著者名を見ている。
その名が作中に現れることで、 「これはどこまでが作り話なのか」という疑いが生じる。
騙しの技術
著者名を作中に持ち込む。
読者は本文を疑っても、表紙は疑わない。
表紙の名はこの本を書いた実在の人物を指すはずである。
→ その名が作中人物として現れた瞬間、 どちらの層の話なのかを決める基準が失われる。
入れ子を溶かす。
作中作は通常、枠が明示されている(ここからは作中の小説だ、と)。
この作品では、その枠が次第に曖昧になる。
語り手の現実の記述と、語り手が書いている小説の記述が、
区別しにくい形で並んでいく。
心当たりのない投稿から始める。
冒頭で「自分の名で、自分の知らない原稿が存在する」という状態を作る。
→ 語り手の同一性そのものが、最初から揺らされている。
フェアプレイの担保
- 作中作であることは、少なくとも冒頭では示されている
- 後日譚が収録されており、枠の外側からの視点が用意されている
- ⚠️ ただし「どこまでが作中の現実か」は最後まで確定しないという評がある
効き目
- 読者が「この作者は実在する」という知識を持ち込むほど効く
→ 作品の外側の情報が、仕掛けの一部として動員されている
- 怪奇の雰囲気と、層の不確かさが同じ方向を向いている
- 後日譚が、解決ではなく不安の持続として働く
弱点・破綻しやすい点
- ホラーとして読まれることが多く、 仕掛けの側が評価されにくいという傾向がある
- 「どこまでが本当か確定しない」ため、 検証可能な解決を求める読者には不満が残る
- 引用・言及が多く、衒学的だという指摘がある(デビュー作ゆえ)