仕掛けの要約【ネタバレ】
「◯◯の日記」は、◯◯が書いた日記なのか。
本編は複数の記録で構成される——手記・日記・見聞の記録。
読者はそれぞれを、題に付された名前の人物が書いたものとして読む。
しかし「◯◯の日記」という題は、 「◯◯が書いた日記」とも「◯◯を観察して付けた日記」とも読める。
さらに、その日記は途中までが実際の日記であり、
それ以降は後から回想の形で書かれたものである。
同じ一つの文書の中で、性質が途中から変わっている。
そして双子がいる。
12年前に死んだとされていた人物が、実は生きていた。
双子の一方が他方と取り違えられていたためである。
生きていた側が、もう一方のふりをして殺人を行っていた。
騙しの技術
所有格を曖昧なまま使う。
「◯◯の日記」——日本語の「の」は、 書き手を示すのか、対象を示すのかを決めない。
文法が仕掛けを支えている。
文書の性質を途中で変える。
前半は同時進行の日記、後半は回想。
同じ一つの文書だと読者が思っている間に、 記述の信頼性の質が変わっている。
難読の名前を大量に置く。
土地の名・家の名・人物の名が、難しい漢字で、似た音で並ぶ。
読者の注意が「誰が誰か」の識別そのものに吸われる。
その負荷の下で、書き手の帰属という問いは後回しになる。
「死んだ」という前提を村ぐるみで固定する。
12年前の死は、村の共通認識として扱われる。
共同体が「いない」ことにしている人物は、 他の人物の口から名指されない。
→ 言及されないことが、不在の証拠に見えてしまう。
探偵役に外させる。
探偵役は推理を何度も外し、試行錯誤の末に真相に至る。
探偵が誤ることで、読者は「まだ答えは出ていない」と思い、 すでに出ている手がかりを保留してしまう。
フェアプレイの担保
- 日記の題はそのまま提示されている。読み方を限定しているのは読者の側
- 手がかりはむしろ露骨に置かれているという指摘がある
(露骨さが逆に「これは誘導だろう」と読ませ、無効化されている)
- 複数の記録が並ぶことは、冒頭から示されている
効き目
- 日本語の助詞の曖昧さを直接使っている。翻訳では成立しにくい
- 記録の多重構造と怪異の雰囲気が、読みの負荷そのものを演出に変えている
- 再読しても全部には気づかないという評がある。層が多い
弱点・破綻しやすい点
- 読みにくさが仕掛けを支えている一方で、読者を脱落させる。
「叙述トリックのところが分かりにくかった」という評が複数ある
→ 仕掛けが届く前に読者が疲れる危険
- 手がかりが露骨すぎて、注意深い読者には早期に読まれるという指摘
- 探偵役が推理を外し続ける構造は、推理小説としての信頼を損なうという見方もありうる