仕掛けの要約【ネタバレ】
本編の合間に、計10回、独白が挿入される。
本編は、失踪した天才少年の伝記を書くために、
作家志望の男が資料を読み、関係者に取材していく話である。
挿入される独白は、樹海での孤独な生活を語っている。
読者はそれを、失踪した少年のものとして読む。
真相——その独白は、伝記を書いている側の男のものだった。
語られている「現在」が、読者の思っている時点ではない。
騙しの技術
本編と断章を交互に置く。
本編が失踪した人物を追っているのだから、
挿入される独白もその人物のものだろう、と読者は自分で結びつける。
作者は結びつけていない。読者が勝手に対応づけている。
名前をひらがなで書く。
独白の中で姓がひらがなで表記される。
漢字なら人物が確定するが、ひらがなでは確定しない。
書かれていないのではなく、確定しない形で書かれている。
文体を大量に並べる。
独白・短編小説・年譜・関係者への聞き取り——
形式が多いほど、それぞれの帰属を追う負担が増える。
読者の注意は「誰が書いたか」ではなく「何が書いてあるか」に向かう。
作中作を挟む。
作中で書かれた小説が本編に混ざることで、
どこまでが作中の現実で、どこからが虚構かの境界が曖昧になる。
実在の事件を思わせる要素を配置する。
過去に起きた事件を思わせる設定を置くことで、
読者は現実の知識を持ち込んで先入観を作る。
フェアプレイの担保
- 独白の中に、書き手を特定する情報が書かれていない(嘘は書かれていない)
- ひらがな表記はそのまま提示されている。読者が漢字を補っている
- 独白の内容には、失踪した人物のものとしては不自然な箇所が置かれている
効き目
- 「並べられたものを読者が勝手に対応づける」型の典型例
- 形式の多さそのものが、注意を分散させる装置として働いている
- 分量(600ページ超)が仕掛けを支えている。長さが忘却を生む
弱点・破綻しやすい点
- 作者の評判が仕掛けの敵になっている。
この作者は叙述トリックの書き手として知られているため、
読者が最初から疑って読む。
ある読者は「純粋に騙されることを楽しめなかった」と書いている
→ 「予告してから使う」型(TDB-0051)とは逆に、 予告するつもりがないのに予告されてしまっている状態
- ひらがな表記に気づいた読者は、その時点で疑い始める
- 一部の要素(「異人」の正体・失踪者の生存)は序盤から推測可能という指摘がある