仕掛けの要約【ネタバレ】
巨大な砂嵐に襲われたドバイで、撤退を拒んで残った米陸軍の大隊とその指揮官コンラッド大佐が消息を絶つ。デルタフォースのウォーカー大尉は二人の部下を連れて偵察に入る。街で大隊と戦ううちに、ウォーカーは無線でコンラッドとつながり、以後コンラッドは無線で主人公を挑発し、試し、選択を迫る。プレイヤーは、街を支配する狂った指揮官を追い詰める物語として、コンラッドの声を聞き、その指示と挑発に応えながら進む。
真相では、コンラッドは主人公たちが街に入るより前に自ら命を絶っていた。無線の向こうのコンラッドは、民間人を巻き込んだ攻撃の後に主人公が作り出した幻覚で、拾った無線機は動いてさえいなかった。コンラッドが課した残酷な選択の場面も、目の前にいた二人はとうに死んでいた。最上階で主人公はコンラッドの遺体を見つけ、最後の対話の場面では、画面が切り替わって、主人公が一人で相手の台詞まで口にしていたことが示される。
誤った像は、主人公自身の知覚から生まれている。作中に主人公を騙す人物はいない。部下は無線機そのものを確かめておらず、コンラッドとの交信を主人公の言葉を通じて受け取っている。目の前にあるはずのものに部下が反応しない場面もある。無線の声を直接聞き、画面でコンラッドの姿を見ていたのは、主人公と、主人公の知覚をそのまま渡されるプレイヤーだけである。
大隊が何をしていたのか、街で誰が誰を裏切ったのかといった筋の多くは、作中の人物の嘘や証言を主人公と同じ経路で受け取るもので、本項目の仕掛けには数えない。
騙しの技術
幻覚の声を、普通の無線の声として聞かせる。 この種の軍事シューターでは、無線で敵の指揮官や司令部の声が届くのはごく普通の仕組みである。コンラッドの声は、ほかの無線と同じ形で流れ、主人公はそれに答える。主人公の主観を示す標識は置かれない。
幻覚の場面を、三人称の画面で見せる。 プレイヤーは主人公の肩越しの画面で遊んでおり、画面は外から主人公を映している。幻覚の場面も、現実の場面と同じ撮り方で示されるので、映っているものは起きている、という前提だけで幻覚が現実になる。
悪役の存在を、ジャンルが保証する。 敵地に乗り込み、狂った指揮官を追い詰めて倒すのは、戦争もののお決まりの型である。最後に倒すべき人物が待っている、という型の約束が、コンラッドの声の実在を支える。
主人公に、自分の罪を自分で押しつけさせる。 幻覚のコンラッドは、主人公がしたことの責任を引き受ける相手として現れる。主人公は本気でコンラッドを追っているので、嘘をつく気配がない。
フェアプレイの担保
- 場面の切り替わりが、通常は黒い暗転、幻覚や自己欺瞞のところでは白い暗転になる。白い暗転の場面に何があったかが、真相の側から読める
- 無線越しのコンラッドの声は、途中で拾える記録の中の本人の声と響きが違う
- 部下が、目の前にあるはずのものに反応しない場面、主人公の言動を理解できない場面がある
- 冒頭の場面から、街の各所に宿敵の肖像が置かれ、主人公がどこにでも敵の顔を見ていることが示される
- ロード画面の文言が、操作の説明から、主人公とプレイヤーに向けた問いに変わっていき、指揮官の所在を問う文言も現れる
- 二周目に遊んでも、無線の会話や部下とのやりとりは、主人公が一人で話している場面として通る、という評価がある
効き目
- 真相が明かされた瞬間、悪役を追うという物語の動機そのものが消える。主人公が重ねてきた暴力は、罪を押しつける相手を作るためのものだったことになる
- プレイヤーは無線の声に応えて主人公を動かしてきたので、責任を押しつける相手を求めていたのは自分でもあった、と受け取られやすい。本作は、プレイヤーが手を下す暴力への加担を論じる批評で繰り返し取り上げられてきた
- 最後の対話の場面で、画面そのものが切り替わって一人の主人公を映すので、映像の前提がプレイヤーの目の前で崩れる
弱点・破綻しやすい点
- 主人公が正気を失っていくことは、途中から公然と描かれる。 幻覚らしい場面、部下との衝突、ロード画面の問いかけが重なり、主人公の知覚が当てにならないことは早くから察しやすい。最後まで伏せられているのは、無線の向こうの指揮官がいなかったという一点で、驚きの幅はそこに限られる
- どこまでが幻覚かは決まらない。 書き手の一人は、主人公がプロローグの墜落で死んでおり、以後は死にゆく主人公の幻だという読みを示している。この読みを取ると、仕掛けの範囲が作品全体に広がり、線が引けなくなる
- 白い暗転の合図は、気づいたプレイヤーには早い段階で真相の向きを教える