仕掛けの要約【ネタバレ】
主人公ジェイムスは、3年前に病で亡くした妻メアリーから「思い出の場所で待っている」という手紙を受け取り、霧の町を訪れる。冒頭、ジェイムス自身の内心の声がこの前提を語り、手紙は最初から所持品として持たされている。プレイヤーは、妻を病で失った夫が、死者からの手紙という謎を追う物語として受け取る。
実際には、メアリーを死なせたのはジェイムスだった。長い闘病の末に一時帰宅していた妻を、看病の果てに枕で窒息させており、死んだのは3年前ではなく、町を訪れる直前である。3年前は病が分かり余命を告げられた頃にあたる。ジェイムスはこの記憶を自分の中に押し込めたまま、妻が手紙で自分を呼んでいると信じて町に来ていた。終盤、思い出のホテルで見つけた古いビデオテープに自分の行為が映っており、そこでジェイムスとプレイヤーは同時にそれを知る。
誤った像は、主人公本人の思い込みから生まれている。作中にジェイムスを騙す人物はいない。町で出会う人々もこの像を受け取らず、メアリーを知る少女ローラは、むしろ最近まで生きていたことを示す言葉を口にする。誤った前提を受け取って疑わないのは、主人公の内心の声と、主人公が持つ手紙を通じてそれを受け取るプレイヤーだけである。
町で出会うメアリーそっくりの女性マリアの正体は、作中で公然と謎として扱われ、作中で答えが出るので、本項目の仕掛けには数えない。
騙しの技術
主人公の内心の声に、前提を言わせる。 「妻は3年前に死んだ」は、地の文の事実ではなく主人公の独白として示される。作り手が事実として断言する箇所はなく、主人公は本気でそう信じているので、嘘をついている気配もない。
主人公自身に、知らないことを知らせない。 ジェイムスは記憶を押し込めているので、隠そうとする素振りがない。語る側に隠す意図がないため、ためらいや言い淀みといった、隠しごとの痕跡が生じない。
謎の向きを固定する。 物語の問いは「死んだ妻からなぜ手紙が来たのか」「妻はどこにいるのか」に置かれる。プレイヤーに与えられる目的も妻を探すことで、問いはすべて主人公の外にある。探している本人が死の原因だという問いは立たない。
持ち物の画面に、存在しない手紙を置く。 手紙はゲームの所持品として最初から画面にあり、いつでも開いて文面を読める。システムの表示は、手紙が物として存在することを裏書きする。のちにこの手紙は段階的に消えていく(下記)。主人公の思い込みを、システムの表示が代わりに担っている。
フェアプレイの担保
- メアリーを病院で知っていたローラは、メアリーと会ったのは最近だと言い、メアリーからの手紙は先週迎えた8歳の誕生日を祝っている。3年前の死とつじつまが合わない
- その矛盾を受けて、ジェイムス自身が、妻は3年前に死んだのではないのかと口にする
- 所持品の手紙は、物語の途中で文字が消えて白紙になり、さらに進むと紙が、最後には封筒も所持品から消える
- 執拗に現れて主人公を追い詰める怪物(三角頭)は、主人公が罰を求める心の現れとして描かれる
- 町で出会う他の人物たちも、それぞれ自分の罪や傷に見合った光景を見ていることが示される。町が罪を抱えた者の心を映す場所だという手がかりになる
真相を知って遊び直すと、手紙を読み返すたびの主人公の反応や、他の人物とのやりとり、怪物の意味が、罪から目を背けている男の物語として通る。
効き目
- 真相が明かされた瞬間に、主人公と一緒に進めてきた妻を探す旅そのものの意味が反転する。プレイヤーは主人公を操作してきたので、主人公の否認に自分も加わっていたことになる。驚きよりも、自分の手で進めてきたことの重さとして効く
- 謎の問いが主人公の外に向いているため、怪奇現象の正体や手紙の謎を追う間、主人公自身は疑われにくい
- 手紙が所持品から消えていく演出は、気づいたプレイヤーには不穏な予兆として働き、真相の後には、主人公の思い込みが崩れていく過程の記録として読み直せる
弱点・破綻しやすい点
- 死の時期の食い違いは、物語の途中で作中に持ち出される。 ローラの言葉と主人公自身の疑いによって、「3年前」の前提は真相より前に揺らぐ。時期についての誤認は、作中で公然と問われてから解かれる側に移る。主人公が死に関わったという点は、ビデオテープの場面まで問われない
- 主人公が忘れていたのか、知っていて語らなかったのかは、作中で明言されない。 記憶を押し込めていたと読まれることが多いが、町の力が記憶を歪めたという読みもある。町を、主人公を欺く作中の存在と取るなら、仕掛けの層の評価が変わる
- 手紙が本物だったかどうかは解釈が分かれる。 冒頭の手紙は主人公の妄想の産物だったと読まれることが多いが、終盤に現れる妻の手紙は実際に書かれたものと読まれており、両者の関係は作中で決着しない
- 主人公の心を映す町という設定は、ホラーの約束として早い段階で示される。主人公の心に何かがあるとは察しやすく、ジャンルに慣れたプレイヤーには、主人公自身に罪があると見当をつけられやすい
- 公式の紹介文も「3年前に死んだはずの妻」と、主人公の前提をなぞって書いている。予備知識として先に紹介文を読んだ受け手には前提が補強されるが、「はずの」という言い方には含みがあり、疑う手がかりにもなる
リメイク版(2024)との違い
2024 年のリメイク版(Bloober Team 開発)は、物語の骨組みと真相をそのまま受け継いでいる。所持品の手紙が消えていく演出も残されている。
違いとして指摘されているのは手がかりの置き方である。リメイク版の冒頭の場面では、主人公の指に結婚指輪の日焼け跡が描かれており、指輪を外して間もないこと、つまり妻の死が最近であることを示す手がかりになっている。オリジナル版の冒頭にはない。グラフィックの精細さが上がったことで、オリジナル版では描けなかった水準の身体の細部が、手がかりの置き場所として使えるようになった例である。
リメイク版では結末の種類も増えている(妻と抱き合う結末、湖に沈む結末)。真相が明かされた後の分岐が増えたもので、誤認の作り方は変わらない。