仕掛けの要約【ネタバレ】
海底都市に迷い込んだ主人公を、無線の声が導く。声の主は、家族を救いたいと語るレジスタンスの指導者で、主人公(=プレイヤー)は彼の指示に従って都市を進む。要所の指示には、丁寧な依頼の決まり文句が添えられている。
プレイヤーはこの声を、ゲームによくある案内役として受け取る。次に何をすべきかを教える、進行のための仕組みである。決まり文句は、その人物の話し癖に見える。
真相:決まり文句は、主人公の頭に条件づけで仕込まれた服従の合図だった。主人公は、この言葉を添えて命じられたことを拒めない。案内役は都市の支配を狙う別人で、主人公を操って都市の主を殺させるために導いていた。終盤、都市の主がこの合図を使って主人公に命令してみせ、それまでの指示が全部命令だったことが明かされる。
プレイヤーが「ゲームの指示だから従った」と思っていた行動は、作中では「合図で命じられたから従った」行動だった。
叙述の層は、この指示の受け取り方にある。案内役の正体(別人の偽名だった)と、主人公の出自・飛行機事故の真相は、作中の人物の嘘を主人公と同じ経路で受け取るか、終盤に出る新事実で、叙述トリックの層には数えない。
騙しの技術
合図を、ゲームの進行指示の形で出す。 無線で次の行き先や拾う物を告げる声は、この種のゲームではごく普通の仕組みである。プレイヤーはその指示を、作中の人物の言葉というより、ゲームが自分に出している目標として読む。目標に従うのは遊び方の約束であって、物語の出来事ではない、と受け取っている。
合図を、会話の中に目立たない言い回しで置く。 合図は毎回はっきり発音されていて、隠されてはいない。ただ、命令らしくない丁寧な依頼の形なので、話し癖としか聞こえない。制作の段階では、もっと露骨な合言葉の案があったが、裏切りを示しすぎるとして退けられ、会話に紛れ込む言い回しが選ばれた。
主人公の従順を、プレイヤーの従順で覆う。 案内役は、助けてほしい、ここから出してやる、と語り、プレイヤーの目的と自分の目的を重ねてみせる。進むには彼の導きが要る。従う理由としてはそれで足りるように見え、プレイヤーは疑わない。従っているのは自分であり、ゲームでは指示に従うのが当たり前だからである。見知らぬ声に従い続ける主人公の側の不自然さが、プレイヤーの側の自然さで埋まっている。
一部の選択だけは自由にしておく。 案内役は、ある重要な選択についてだけは合図を使わずに勧める。プレイヤーには本当に選べる場面があり、自分の行動を自分で決めているという感覚が保たれる。
フェアプレイの担保
- 合図の言い回しは、冒頭の機内で主人公が持つ贈り物の札から始まり、序盤の最初の指示にも、その後の要所の指示にも、毎回そのままの形で出てくる
- 主人公が従う理由として作中に示されるのは、案内役の頼みと、脱出に彼の導きが要ることだけで、見知らぬ声に従い続ける理由としては薄い
- 種明かしの部屋の手前には、その言い回しが壁に大きく書かれている
- 種明かしの場面では、都市の主が同じ言い回しで命令を重ね、プレイヤーはそこで主人公の操作を奪われる。言葉の効果が、遊んでいる手の上で示される
効き目
- 再プレイでは、序盤の何気ない「無線を拾ってくれ」の類の指示が、すべて命令として聞こえる。同じ台詞の意味が、遡って変わる
- 騙されていたのは主人公だけではない。プレイヤーも、指示に疑わずに従っていたことに気づかされる。主人公の条件づけと、プレイヤーがゲームから受けてきた習慣とが重なる
- 種明かしで操作を奪うので、プレイヤーが自分で選んでいたと思っていたものが、遊びの手触りとして崩れる
- 本作は、ゲームでプレイヤーが持つ主体性(エージェンシー)を論じる研究で繰り返し取り上げられてきた
弱点・破綻しやすい点
- 種明かしの後も、プレイヤーは別の人物から目標を与えられ、決まった順に進む。指示に従う遊び方は変わらないので、種明かしが言った「操られていた」ことの重みが後半で薄まるという批判がある
- 本当に選べる選択(上の「一部の選択」)の結果の差が小さいことも批判されており、自由の感覚と、決まっている構造との落差が、物語のどこまで効いているかは評価が分かれる
- 合図は要所に絞って使われている。多用すれば決まり文句が耳につき、話し癖として流れなくなると見られる