仕掛けの要約【ネタバレ】
怪奇・幻想の短編七編を収めた作品集である。各編は独立していて筋のつながりはないが、どの編にも「由伊」という名の女性が登場し、物語の鍵を握る。収録作ごとに層を分けて判定すると、叙述の層があるのは巻末の表題作「眼球綺譚」の外枠だけである。他の六編の驚きは、筋の上での意外な展開か、怪異そのものの開示にある。
表題作「眼球綺譚」
出版の仕事をしている語り手「わたし」のもとに、大学の後輩から郵便が届く。「読んでください。夜中に、一人で」という手紙とともに、ある地方都市の猟奇的な事件を題材にした小説の原稿が入っている。語り手はそれを読み始める。原稿の中では、被害者の眼球をえぐる連続殺人と、主人公の過去にまつわる出来事が語られ、そのなかで目を持たずに生まれた子どもが登場する。
読者は、語り手を原稿の外にいる一読者として読む。それまでの六編で毎回「由伊」が現れてきたので、この編の由伊も原稿の中に現れるはずだと考え、語り手のことは数に入れない。真相では、原稿に描かれた子どもが語り手自身であり、この編の由伊は語り手その人だった。原稿は語り手の外の作り話ではなく、語り手の出自そのものを書いたものだった。
- 外枠の層(叙述):語り手は自分の名を語らない。読者が作中作の中に探していた人物は、作中作を読んでいる側にいた
- 作中作の層:原稿の中の事件と怪異は、作中作の内部の出来事として語られる。この層は叙述の層ではない
他の六編
「再生」「呼子池の怪魚」「特別料理」「バースデー・プレゼント」「鉄橋」「人形」は、いずれも結末の反転や怪異の開示で驚かせるが、同じ記述が読み返して別の意味になる形の仕掛けとしては語られていない。「バースデー・プレゼント」と「人形」は、結末をどう読むかについて解釈が分かれる。
騙しの技術
- 作品集の型を読者に持ち込ませる。各編に必ず由伊が現れるという型が、巻末までに六度繰り返される。読者はこの型を表題作にも持ち込み、由伊が登場人物として現れるのを待つ。型は最後まで守られているが、由伊のいる場所が読者の探していない側にある
- 一人称が名を覆う。一人称の語り手は自分の名を名乗らなくても不自然でない。語り手が名を言わないので、由伊がこの編にはいないように見える
- 作中作と外枠を分けて見せる。原稿は後輩の書いた小説として渡される。読者は、小説の中の出来事と、それを読む語り手の現実を別のものとして数える
- 語り手の身辺の事情は、本筋とかかわりのない描写として置かれる。それが結末で出自の手がかりに変わる
フェアプレイの担保
- 語り手の家庭の事情が、本筋と関係のなさそうな描写として書き込まれており、読み返すとそれがすべて結末への伏線になっている、と指摘されている
- 由伊がなかなか現れないこと自体が、読者に違和感を与える。由伊が来ないと思いながら読んでいた読者がいる
- 作中作を外枠と並べる構成は作中で隠されていない。結末で作中作の世界と外枠の現実が一つにまとまる
効き目
- 作品集の最後に置かれることで、六編分の型が読者の側に積み上がっている。一編だけ読む場合より、由伊の不在が強く効く
- 原稿を読んでいる語り手が、原稿の中の人物だったと分かることで、読む者と読まれる者の境が崩れる。作中作の世界と外枠の現実が結末で一つにまとまる構成として受け取られている
- 作中作の怪異が、外枠の現実の語り手の身体と出自に結びつき、ホラーとしての恐怖がそのまま仕掛けの反転に重なる
弱点・破綻しやすい点
- 仕掛けの資源が作品集の型なので、表題作だけを単独で読むと由伊の不在が効かない。収録順に読むことが前提になる
- 由伊が現れないことは、結末の前から読者に気づかれている。型を持ち込ませる仕組みと、真相への手がかりが同じものである
- 作中作の内容が強烈な描写に偏っており、外枠の反転よりも描写の印象が残った、という読後も多い。結末についても、構成が見事だという評と、もうひと捻りほしい・普通すぎるという評に割れる