仕掛けの要約【ネタバレ】
本書は本文の前に、作者自身の注記として、この推理小説の主な仕掛けは双生児であることを利用したものだと告げる。双子の替え玉を使うなら前もって読者に知らせるべきだ、という探偵小説の古い約束事に従った体裁である。
物語は二つの筋を交互に進む。東京では、素顔をさらしたまま強盗を重ねる犯人が、一卵性双生児の兄弟のどちらかだと分かっていながら、どちらなのか特定できない。東北の雪深いホテルでは、招待された客たちが閉じこめられ、一人ずつ殺されていく。
その二つの筋の前に、名前の出ない双子が犯行を決意するまでの心理を描いた一節が置かれ、直後に東京の双子の強盗が始まる。読者は冒頭の双子を東京の強盗兄弟だと受け取り、注記の言う双生児もこの兄弟のことだと考えて、雪のホテルの事件にこの兄弟がどう関わるのかを追いかける。
実際には、双子は二組いた。冒頭で犯行を決意していたのは東京の強盗兄弟ではなく、別々の筋に、別々の姓で登場していたもう一組の双子である。東京の強盗兄弟は、もう一組に操られて利用された側だった。注記は嘘をついていない。双生児を利用した仕掛けは確かにあり、それが読者の見ていた兄弟のものではなかっただけである。
もう一組の双子は作中でも、双生児であることを利用した替え玉で捜査の目を欺く。こちらは作中の人物どうしの騙しで、読者も作中の人物と同じ材料から受け取る。読者だけに向けられているのは、冒頭の一節と注記が、二組の双子を一組に見せる配置のほうである。
騙しの技術
- 仕掛けの種類を本文の外で告げる。 注記は双生児を使うことだけを言い、それが誰のことかは言わない。告げられた読者は双子を探し、すぐ目の前に一組を見つける
- 名前のない冒頭の一節を、名前のある双子の直前に置く。 犯行を決意する双子の心理には名前が付いていない。その直後に双子の強盗が始まるので、読者は二つを同じ兄弟の話としてつなぐ。並べてあることが、そのまま対応の主張に見える
- 見えている一組を、本命の陰に立たせる囮にする。 東京の兄弟は、双子であることが最初から明かされ、捜査陣もその兄弟が双子であることに手を焼く。双生児の仕掛けを探す読者の目は、ここで足りてしまう
- もう一組は、双子として登場させない。 二人は別々の筋に、別々の姓で現れる。読者は二人を並べて比べる機会を持たないまま、双子という問いを東京の兄弟の側だけで立てる
- 作中の替え玉を、読者が探しているのと同じ種類の仕掛けにする。 予告された双生児の替え玉は、作中でも実際に使われる。予告された中身と真相の中身が同じなので、真相が明かされても注記は守られたことになる
フェアプレイの担保
- 冒頭の注記そのものが、双生児の仕掛けがあることを先に告げている。注記が言っていないのは、それが一組だけだということである
- 冒頭の一節は名前を書かないだけで、それが東京の兄弟だとは一度も言っていない。読み返すと、一節と兄弟を結んでいたのは並べ方だけだったと分かる
- 予告された装置が真相でも実際に使われるため、注記そのものが手がかりを兼ねる。双子の仕掛けが一組で済むのかを問い直せば、別の一組を探す道は開いている
効き目
- 予告を受けた読者ほど、双子の仕掛けを東京の兄弟に当てはめて読む。予告が身構えを作り、その身構えが向く先を一組に固定する。冒頭の注記がそっちのほうだったのかと分かった、という反応が多い
- 真相が明かされると、冒頭の一節の意味がまるごと変わる。小悪党の兄弟の決意として読んだ心理が、事件の全体を組み立てた側の決意になる
- 予告と真相が同じ種類の仕掛けなので、騙されたあとに約束を破られたという不満が出にくい。双生児の替え玉を予告すれば成立しにくくなる、という約束事の前提そのものを裏返している
弱点・破綻しやすい点
- 雪のホテルの事件は海外の古典的な孤島ものの筋を下敷きにしており、型が知られているぶん、犯人の見当が中盤でついたという評がある。二組目の双子に気づくかどうかとは別に、山荘の側の驚きは小さくなりやすい
- 予告によって双子の仕掛けを探す読者が生まれる以上、見えている一組で問いを止めない読者には、もう一組を早めに探し当てられうる
- 発表当時の通信・交通の事情に依存する筋立てが多く、今の読者には成立の前提が古く見えるという評がある
- 最後に誰が刑事の前に立っていたのかは、はっきり語られないまま終わる。読み手によって受け取りが分かれる