仕掛けの要約【ネタバレ】
小学生の「僕」こと馬場新太が、夏休みの日記として書く文章が本文になっている。夏休みの直前に「探偵伯爵」と名乗る風変わりな大人と知り合った「僕」は、夏祭りの夜に友達が姿を消した事件をきっかけに、伯爵とともに子どもが次々にいなくなる事件に関わっていく。語り手は一人称「僕」で、男の子の名前を持ち、消えた友達も男の子として書かれる。読者はこれを、ひとりの少年がひと夏の出来事を記した文章として読む。
本文の終わりで、この文章は先生に提出され、続いて伯爵から書き手に宛てた手紙が置かれる。手紙は「馬場新太」ではない名前に宛てられており、そこで、書き手が事件を文章にする際に、自分自身と被害に遭った子どもたちの性別を逆にしていたことが指摘される。現実の書き手は女の子であり、狙われていたのも女の子たちだった。
事件そのものは実際に起きたこととして扱われている。変えられていたのは、出来事の骨格ではなく、そこに関わった子どもたちの性別である。
騙しの技術
- 書き手が作中の子ども本人である。 本文は「僕」が自分で書いた日記の体裁をとるため、性別を入れ替えたのは作者ではなく作中の書き手であり、作品の地の文が読者に嘘をついているのではない
- 一人称と名前で性別を示す。 「僕」という自称と男の子の名前が冒頭から与えられ、読者はそれを書き手の性別として受け取る。性別をぼかす書き方ではなく、男の子であるという手がかりを積極的に置いている
- 被害者の性別も同じ向きにそろえる。 消えた友達や被害に遭う子どもたちも男の子として書かれる。語り手だけでなく事件の側の性別も入れ替わっているため、読者は事件の性質そのものを別の形で理解することになる
- 児童向けの体裁と語り口。 平易で淡々とした子どもの文章が続くため、書き手が何かを作り替えている可能性は意識されにくい
- 種明かしを本文の外に置く。 真相は物語の地の文ではなく、本文を読んだ伯爵の手紙という別の文書で示される。手紙は短く、事実を指摘するだけで、それ以上の説明をしない
フェアプレイの担保
- 本文が書き手によって後から整えられた文章であることは、手紙より前に示されている。提出された日記を先生が「お話」としてよく書けていると評し、伯爵も手紙でそれを小説と呼ぶ
- 作中の大人たちが、事件について子どもは知らないほうがよいという態度をとる場面がある。真相を知ってから読み返すと、この態度が別の意味を帯びると複数の読者が指摘している
- 一方で、性別そのものを疑わせる手がかりは本文中にほとんど見当たらないという読者もいる
効き目
- 真相が明かされたとき、変わるのは語り手の像だけではない。被害者が女の子だったと分かることで、犯人が子どもを狙った動機の読み方が変わり、それまで淡々と読んでいた事件の重さが一度に増したという反応が多い
- 児童向けの叢書の一冊として、少年のひと夏の冒険という外見をとっているため、反転が起きたときの落差が大きい
- 書き手がなぜ性別を入れ替えたのかという問いが残り、作中の手紙はその理由を推測として述べるにとどめている。読者のあいだでも解釈が分かれている
弱点・破綻しやすい点
- 手紙が短く、事実を指摘するだけなので、最後の場面の意味がすぐには分からなかったという感想が少なくない。真相を理解したのは再読してから、という読者もいる
- 伏線が見当たらない、唐突だという評がある。性別の入れ替えを示す手がかりの量が少ない、という不満として現れている
- 真相を知ってから振り返ると、高学年の女の子が山の中に秘密基地を作る場面などが不自然に見える、という指摘もある。現実のどこまでが書き手によって作り替えられたのかは、本文からは確定しない