仕掛けの要約【ネタバレ】
一冊の本が、三つの層でできている。
| 層 | 中身 |
|---|---|
| 内側 | 作中作の小説(登場人物が書いたことになっている) |
| 中間 | プロローグとエピローグ(作家と編集者が、その原稿について話す) |
| 外側 | あとがき(作者名義で書かれている) |
そしてそれぞれの層に、別の真相がある。
### 内側——名前のない登場人物が犯人
作中作の中で、事件が起きる。
真相——犯人は、名前を持たない登場人物である。
作中作の書き手が、原稿からその人物の存在を消そうとしたためである。
だから、その人物は「犯人」という呼称でしか現れない。
書き手が意図的に消したから、結果として叙述トリックになっている。
先行研究はこれを「天然の叙述トリック」と呼んでいる。
### 中間——原稿を書いた人物が、現実の犯人
作中作の謎は、その中では解けない。
書き手が真相を示す必要を持っていないからである。
→ 一段外側に出て初めて、謎として認識できる。
そしてエピローグでは、作家自身が犯人だという別の真相が示される。
だがこれは作中作から導かれたものではなく、ただ提示されるだけである。
### 外側——導出の手続きが、あとがきに書かれている
なぜ作家が犯人だと分かるのか。
その手続きは、本編の中には書かれていない。
→ あとがきという、もう一段外側の層で示される。
作中作とプロローグを組み合わせることで、
読者はエピローグより前の段階で犯人を指摘できる、と作者は書いている。
### そしてもう一つ——作家の名前
プロローグとエピローグに登場する作家は、
本書の作者と同じ名字で呼ばれる。
読者はこれを、作者本人だと読む。
別人である。
騙しの技術
登場人物を混同させて、一人を消す。
複数の人物の記述を重ねることで、一人分の存在が数から落ちる。
消した理由を、作中の事情にする。
作中作の書き手が「あの人を消し去ることに決めていた」。
→ 叙述トリックが、作中の動機から自然に生じている。
作り手が仕掛けたのではなく、作中の書き手がやったことになっている。
謎を、その層では解けなくする。
作中作の中には、真相を示す動機を持つ者がいない。
→ 謎が謎として立ち上がるのは、一段外に出たときだけ。
同名の人物を、作者の位置に置く。
現実の出来事(実際に起きた災害など)まで持ち出して、
作者本人だと思わせる。
真相を、層ごとにばらばらに置く。
どの層にも真相があるが、どれも完全ではない。
組み合わせて初めて全体が見える。
フェアプレイの担保
- 三層構造は、目次の段階で見える形になっている
- 作中作と枠部分を組み合わせれば、犯人を指摘できると作者が明言している
- ⚠️ ただし先行研究は、作家の同名トリックについて 「トリックを見破るための直接の手がかりはまったく配されていない」と指摘している
効き目
- 三つの層に三つの真相があり、どれも他の層からしか解けない
- 「作中の書き手が消した」という設定によって、 叙述トリックの不自然さが完全に消えている
- あとがきという、通常は作品外と見なされる場所が解決篇になっている
弱点・破綻しやすい点
- ⚠️ 同名トリックに直接の手がかりがない(上記)
- ⚠️ 「名前のない登場人物が犯人」という真相自体が無茶だという評
(先行研究は「無茶なネタ」と書きつつ、成立は認めている)
- 三層構造を追えない読者には、そもそも謎が立たない