仕掛けの要約【ネタバレ】
撮影中の映画の監督が、失踪する。
犯人も結末も、監督以外の誰も知らない。
残されたのは、結末を欠いた「問題篇」の映像だけ。
スタッフと俳優が、監督の意図した結末を推理する。
二重の謎になっている——監督はなぜ消えたのか/映画の犯人は誰か。
### 真相——時系列が入れ替えられている
映画の冒頭で、屋敷の女主人が自殺する。
その後に、事件が起きる。
→ 読者(観客)は、女主人を容疑者から外す。
すでに死んでいるからである。
真相——順序が変えられていた。
自殺は、事件のあとに起きていた。
先行研究はこれを 「叙述トリックによるバールストン先攻法」と呼んでいる。
=最初に被害者を出しておいて、容疑圏の外に置く型の、叙述版。
### そして、この作品は冒頭で答えを言っている
撮影初日の場面で、スタッフの一人が 「映画の叙述トリック論」を長々と披露する。
そこで紹介される映画の紹介が、そのまま本作に当てはまる。
さらに終盤にも「映画だからできる叙述トリックみたいなもの」への言及がある。
騙しの技術
仕掛けの解説を、先に、堂々とやる。
作中人物が、映画の叙述トリックについて議論する。
具体的な映画の題名まで挙げる。
→ 読者は「これは薀蓄だ」と読む。
実際には、答えそのものが置かれている。
(観察メモ★2「隠さないことで隠す/予告してから使う」の極端な例)
枠外の情報を、ミスディレクションに使う。
本作は、映画を作中作としたメタフィクションである。
だから読者は、映画の外側の事情も知っている。
| 枠外の情報 | どう働くか |
|---|---|
| 撮影がシナリオ順に行われている | 時系列の逆転を隠す |
| 女主人役の人物が役者ではない | 結末で再登場して演技できない=犯人役にふさわしくない |
→ 枠外の事実が、内側の推理を縛っている。
そしてその制約を、作り手は 「冒頭の映像の再利用」と「別の人物によるナレーション」で回避している。
台詞に、二重の意味を持たせる。
女主人の自殺直後、ある人物が 「そんなことがあってはなりません……絶対にそんなことがあっては!」と言う。
→ 自殺への嘆きとして読める。
真相を知れば、犯人だと知った時の反応として読める。
不自然な態度を、別の理由で説明させる。
一同が、ある人物を女主人に会わせようとしない。
→ 時系列が逆であることの証拠なのだが、 別の理由があるように読める。
多重解決に、必然性を与える。
俳優にとって、犯人役は「おいしい」役どころである。
→ 結末が分からないのをいいことに、 それぞれが自分を犯人に仕立てようとする。
「利己的な自白合戦」になる。
フェアプレイの担保
- 冒頭の「映画の叙述トリック論」が、そのままヒントになっている
(先行研究は「かなり親切なヒント」と評している)
- 手がかりが映像の中に埋め込まれている——天候の不連続
- 終盤にも、映像ならではの叙述トリックへの言及がある
- 枠外の情報も、読者に開示されている
効き目
- 「予告してから使う」が、これ以上ない形で決まっている。
紹介された映画の説明が、そのまま本作の説明になっている
- 枠外と内側の両方に手がかりが分散している
- 多重解決が、キャラクター描写と一体になっている
弱点・破綻しやすい点
- ⚠️ 採用される結末は「探偵=犯人」であり、前例が多い
(先行研究は「犯行にはいささか無理がある」とも述べている)
- ⚠️ 俳優たちの解決は「決め手を欠いている」
- 映画の薀蓄が多く、前提知識のない読者には届きにくい面がある