仕掛けの要約【ネタバレ】
廃墟庭園に、ホラービデオのロケハンで一行が入る。
正体不明の影に、一人ずつ殺されていく。
読者はこれを、その場で起きている出来事の描写として読む。
真相——本編は、撮影された映像である。
撮影しているカメラマンの存在が、読者から隠されている。
カメラのフレームに収まらない部分が、そのまま盲点になる。
そしてそのカメラマンが、犯人である。
単なる撮影者ではなく、この映画の監督でもある。
### 二重の隠匿になっている
先行研究は、隠匿が二段構えだと分析している:
| 層 | 隠されているもの |
|---|---|
| ①撮影の層 | 映像を撮っているカメラマンが、画面に映らない |
| ②鑑賞の層 | その映像を見ながら描写している人物が、隠されている |
②は「一人称を三人称に偽装する」型である。
そして①と②は、同一人物である。
この解釈を支えるのが、次の一文である:
「そう説明すると私は、これまで撮影を続けていたカメラを止めた。」
撮影された映像を描写する文章に、 カメラマンが「私」として現れることは通常あり得ない。
→ 映像を鑑賞している当人が、 画面に映らない事情を撮影者の立場から補足している、と読める。
騙しの技術
前例が用意していた担保を、あえて外す。
先行研究によれば、この型には国内に2つの前例がある。
前例はどちらも、外枠の物語の中で映像を「作中作」として提示している。
→ 読者は「これは撮影された映像だ」と最初から知らされる。
それによってフェアネスが担保されていた。
本作は、それをしない。
外枠にあたる部分は、真相が明かされた後の「幕間」しかない。
本編が映像なのか、目前の現実なのかを、意図的に曖昧にしてある。
→ 前例を知っている読者ほど、 「外枠がないのだから、これは映像ではない」と読む。
先行研究はこれを「前例を逆手に取った仕掛け」と呼んでいる。
同種の囮を、先に置く。
別のスタッフが、メイキング映像の名目ですでにカメラを回している。
→ 「カメラを回している人物」という要素が、 先に、別の人物によって消費されている。
(観察メモ★36「囮は同じ種類であるほど効く」の2例目)
犯人を、堂々と登場させる。
犯人は隠れていない。一行の一員として最初からいる。
→ 「隠された人物がいる」という発想が立たない。
時期を誤認させる。
冒頭に置かれた場面が、数年前の出来事だと読ませる。
章番号を操作する。
冒頭が「32 序幕」で、次が「0 暗黒」。
映画の構成を模した章立てになっている。
→ 映画を「意識した構成」だとは読めるが、 「本編そのものが映像だ」とまでは読ませない。
(T-小説/章題と目次)
仕掛けの成立に必要な二つの説明を、動機ひとつで解決する。
この型を「実際に起きた事件」でやると、二つの問題が生じる:
1. 犯人であるカメラマンが、なぜ撮影を続けるのか
2. 撮影された映像が、なぜ犯人以外の手に渡っているのか
先行研究は、前例2作が事件を「虚構」にしたのは この二問を避けるためだろう、と述べている。
本作は、スナッフ・フィルムの撮影という動機を置くことで、 両方を一度に解決している。
監督という立場を、犯行の手段にする。
単なる撮影者ではなく監督だからこそ、 一行を誘導してばらばらにできる。
→ 連続殺人が可能になる。立場が動機とも手段とも噛み合っている。
フェアプレイの担保
- 「もう一人」の存在を示唆する伏線は置かれている
(真相解明後の「幕間」で説明される)
- 真相解明後の章には「映像が」「カメラは」「画面が」といった 記述が明示されている
- ⚠️ ただし本編が映像であることは、最後まで明示されない。
先行研究は、前例2作がこの明示によってフェアネスを担保していたと述べ、 本作がそれを外していることを「前例を逆手に取った」と評価している。
→ 担保の除去そのものが、仕掛けになっている
効き目
- 映像の技法を、小説に移植している。
先行研究は「もともとは映画などの分野で発展したアイデア」と述べている。
→ 観察メモ★20(媒体移植)の、逆方向の実例。
これまで集めてきた実例は、小説→映像の向きが主だった
- 殺人が実際に起きている(前例2作は虚構)。
そのぶん、ホラーとしての緊迫が保たれる
- ホラーの読者は、叙述トリックを警戒しない
→ ジャンルが枠を決めている
弱点・破綻しやすい点
- ⚠️ 前例を知っている読者には、驚きが小さい。
先行研究:「少なくとも前例を知っている場合には さほどのサプライズが生じない」
→ 観察メモ★21(効き目は作品の外側で決まる)の実例
- ⚠️ 「どちらか判然としない」程度に留まっている。
明示を外したことで、確定的な反転が起きない。
→ 担保を外すと、反転の切れ味も落ちる。代償がある
- ⚠️ 「叙述トリックを疑ってくれ」と言わんばかりの誘導があるという指摘
(別系統)——露骨な説明口調・稚拙に見える表現
→ 観察メモ:TDB-0054と同じ「露骨さ」の問題
- 仕掛けの文章が明快すぎて物足りないという評(別系統)
- 「あまりにも有名な某作品の二番煎じ」という評(別系統)
→ 前例の存在は、読者の側にも認識されている