仕掛けの要約【ネタバレ】
大学院生の栗栖川亜理は、『不思議の国のアリス』の世界の夢を繰り返し見ている。本文は、不思議の国の場面と、亜理のいる現実(地球)の場面が交互に進む。不思議の国の住人は地球の人間と一対一で結びついており(作中ではアーヴァタールと呼ばれる)、記憶を共有し、不思議の国で死ぬと対応する人間も地球で死ぬ。不思議の国で住人が次々に殺され、アリスがその犯人と疑われる。亜理は、同じ夢を見ている同学年の井森(不思議の国では蜥蜴のビル)とともに、地球の側で真犯人を探す。
読者は、不思議の国の場面の中心にいるアリスと、地球の場面の中心にいる亜理を、同じ一人の二つの姿として読む。しかし亜理のアーヴァタールはアリスではなく、冒頭でアリスのポケットに入っている眠り鼠だった。アリスに結びついていたのは、亜理が飼っているハムスターである。アリスと亜理は別々の存在であり、二人を一人として読んでいたことが終盤で明かされる。
作中でも、井森は亜理をアリスだと思い込んでいる。亜理はその誤解を初めは解こうとし、のちには真犯人に対して誤解を利用する側に回る。
騙しの技術
- 二つの世界の場面を交互に並べる。 不思議の国ではアリスが、地球では亜理が場面の中心に置かれ、両者が交互に現れる。並べられているだけで、読者は二人を対応する一組として受け取る。眠り鼠はアリスのポケットの中にいるので、亜理が夢で見ているのはアリスの体験とほぼ重なる。夢の中身が一致することが、対応の取り違えを支えている
- 名前を寄せる。 亜理という名と栗栖川という姓が、アリスとの結びつきを連想させる
- 本人に名乗らせない。 亜理は自分からアリスだと名乗る場面を持たない。アリスだという紹介は井森の口から出る。亜理自身はそれを誤解だと述べるが、読者はその言葉を素通りする
- 作中人物の誤解に読者を同調させる。 井森は最初から亜理をアリスとして扱い、読者は相棒役の思い込みをそのまま引き継ぐ
- 本当の対応相手を人間の外に置く。 アリスの対応相手は人間ではなく、飼われているハムスターである。読者はペットを対応相手の候補に数えない
- ほかの対応の謎を前に出す。 誰が誰のアーヴァタールかという謎は、准教授や二人の刑事についても並行して立てられ、それぞれに取り違えがある。読者の疑いは、主人公以外の人物の対応に向かいやすい
フェアプレイの担保
- 冒頭の不思議の国の場面で、アリスのポケットの中に眠り鼠がいることが示される。眠り鼠はその後ほとんど登場しない
- 亜理は一度も自分からアリスだと名乗らず、井森の思い込みを誤解だと言う場面がある。不思議の国の側でも、アリスがビルに誤解があると繰り返し言いかける
- アーヴァタールは外見・性別・性格が地球の人間と大きく違うことがある、と作中で何度も語られる。それに比べて亜理とアリスは似すぎている、という指摘も作中に出てくる
- 亜理が自宅のハムスターと長い時間話していたという場面がある。真相を知ってから読むと、そこで話していた相手が何者だったかが分かる
効き目
- 驚きの強さを挙げる感想と、読み返すと重要なことがさらりと書いてあったという感想が多い。会話の大半が噛み合わない不思議の国の調子で進むため、手がかりがその中に紛れる
- 准教授、刑事、主人公と、対応の取り違えが段階的に明かされ、何度も騙されたという反応がある
- 主人公の対応が外れていたことは、真犯人との対決の場面で効く。犯人の側も同じ前提で動いているため、明かされた時点で形勢が入れ替わる
- 最後に、不思議の国のほうが本体で、地球の側こそが夢だったという世界の関係の反転が重なる。こちらは世界のありようが明かされる種類の驚きで、結末の場面の解釈は読者のあいだで分かれている
弱点・破綻しやすい点
- アーヴァタールという設定そのものが、誰が誰に対応するかに仕掛けがあることを予告してしまう。仕掛けを前提に読んで、早い段階で亜理がアリスでないと察したという感想が少なくない
- 原作の『不思議の国のアリス』を細かく覚えている読者には、白兎の取り違えなど一部の仕掛けが見えやすいという評がある
- 知性のないハムスターを対応相手に据える点に無理があるという評がある。亜理がハムスターと長く話していた場面も、相手の正体を知らずに話していたとすると不自然だという指摘がある
- 関係者が一つの大学の周辺に集まりすぎているという不満がある。地球の側が夢だったという結末で説明はつくが、ご都合主義と受け取る読者もいる
- 会話文が大半を占め、噛み合わないやりとりが長く続くため、そこで読むのをやめかけたという感想が多い
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