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弁護側の証人

小泉喜美子 / 1963 / 小説

読者が誤認するもの

人物›人物の属性›立場
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層メタ
叙述N-人物の属性
媒体固有T-小説/一人称の空白

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仕掛けの要約【ネタバレ】

元ヌードダンサーの漣子は、財閥の御曹司・八島杉彦と知り合ってまもなく結婚し、八島家に入る。まもなく当主である義父・龍之助が殺され、ある人物が起訴されて、一審で死刑の判決を受ける。物語は、拘置所の面会室で漣子と杉彦が金網越しに言葉を交わす場面から始まり、以後、判決後の現在と、事件に至るまでの経緯とが交互に語られる。

読者はこれを、無実の罪で死刑を宣告された夫を救うために、妻の漣子が弁護士や警察に働きかけて奔走する話として読む。面会室で金網の内側にいるのは杉彦で、外から訪ねてきたのが漣子だと受け取るからである。

真相では、起訴され死刑を宣告されていたのは漣子のほうだった。序章の面会室で金網の内側にいたのは漣子で、面会に来ていたのが杉彦である。漣子が弁護士や担当の警部補と話していた場面も、拘置所の中でのことだった。そして義父を殺したのは杉彦であり、家族ぐるみの口裏合わせによって罪は漣子に着せられていた。終盤の控訴審で、事件を担当した警部補自身が弁護側の証人として出廷し、このことが明らかになる。

終章では、序章と同じ面会室の構図が、二人の立場を入れ替えてもう一度描かれる。

騙しの技術

  • 被告人の名を出さない。 冒頭の判決の場面で、死刑を言い渡された人物の名前が書かれていない。誰が裁かれているのかは、読者が前後の文脈から補うことになる
  • 面会の場面に、位置の情報を書かない。 金網越しに向き合う二人のうち、どちらが内側にいるのかを示す描写がない。語り手の漣子は一人称で語るため、自分がどこにいるかを書かなくても不自然にならない
  • 会話の場面に情景を置かない。 漣子が弁護士や警察と話す場面には周囲の描写がほとんどなく、それが拘置所の中であることが読み取れない
  • 語り手の態度を、面会に来る妻のものとして読ませる。 漣子は一貫して夫の身を案じ、夫の命が助かるかを気にかける。読者はこれを、獄中の夫を思う妻の言葉として受け取る。真相を知ると、同じ言葉は、自分を陥れた相手の命をなお案じる言葉に変わる
  • 現在と過去を交互に置く。 判決後の現在の場面と、事件に至る経緯の場面とが交互に進むため、漣子が事件のあとどういう境遇に置かれたのかを、読者は経緯の側から確かめられないまま読み進める
  • 題名と期待。 題名は海外の著名な法廷ミステリの題を裏返したもので、法廷での逆転劇を予期させる。読者の関心は「夫の無実をどう証明するか」に向かい、「誰が被告なのか」という問いは立ちにくい

作者は、誰が被告かについて嘘を書いていない。明言を避けた箇所を、読者が自分の想定で埋めている。

フェアプレイの担保

  • 冒頭から、死刑を言い渡された人物は名指しされていない。どちらが金網の内側にいるのか分からないと感じた、と述べる読者は少なくない
  • 漣子と弁護士・警察との会話に情景描写がほとんどないこと自体が、手がかりとして読める
  • 序章で漣子が口にする言葉は、立場を逆にして読むとそのまま通る。真相を知って序章に戻ると、同じ台詞が別の意味を帯びる、と多くの読者が指摘している
  • 控訴審で担当の警部補が弁護側に立つという異例の展開は、被告が誰であっても成り立つように組まれている

効き目

  • 第十一章の控訴審に入ったところで、読者はそれまでの読みと噛み合わない記述に出会う。読み飛ばしたのか、読み違えたのかと混乱し、序章に戻って読み直したという反応が非常に多い
  • 驚きの中身は新事実の提示ではなく、読者自身の読み違いに気づくことである。どんでん返しではなく、自分のほうがひっくり返っていた、という感想がこれをよく表している
  • 真相が明かされると、被告と面会人の位置だけでなく、物語全体の構図が反転する。夫を救おうと奔走する健気な妻の物語が、自分を陥れた夫を告発するための闘いになり、唯一の味方に見えた夫が罪を着せた張本人になる
  • 終章は序章の構図を立場を入れ替えて繰り返す。読者が序章で思い描いた配置が、結末で現実のものになるため、反転が二重に印象づけられる
  • 1963年の作品であり、叙述トリックが一般に知られる前にこの形を成立させていたことへの驚きを述べる読者が多い

弱点・破綻しやすい点

  • 仕掛けの所在が序章の一場面に集中しているため、そこで立ち止まった読者には早い段階で見当がつく。冒頭で察した、金網のどちら側かが気になったので衝撃はなかった、という感想がある
  • 一方で、真相の示し方が控訴審の法廷のやりとりに委ねられており、言い回しが古風で回りくどいこともあって、何が起きたのかをすぐに理解できなかったという読者も多い。最後まで仕掛けに気づかないまま読み終えたらしい感想もある
  • 仕掛けに比べて事件そのものは単純で、物語上の不自然さを指摘する声がある。担当の警部補がなぜ再捜査に踏み切ったのかの説明が薄い、決め手となる証拠が捜査段階で見落とされていた理由が書かれていない、家族ぐるみの偽証が都合よく成り立っている、などである
  • 漣子が身ごもった子の父親をめぐる点など、物語の細部に解決されないまま残るものがある、という指摘もある

読み返してみませんか。

仕掛けを知ってから読むと、同じ記述が別の意味で通ります。

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