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塔の断章

乾くるみ / 1999 / 小説

読者が誤認するもの

時間›時系列の誤認›順序
人物›人物の誤認›XをY
人物›人物の隠匿›視点人物の隠匿
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層メタ
叙述N-時間の順序N-人物の同一と別
媒体固有T-小説/一人称の空白
効果E-語り順=時系列E-犯人の内心は描かれない

⚠️ このページは作品の核心(真相)に触れます。未読・未視聴の場合はご注意ください。

まだ読んでいない方へ。この下は真相に触れます。

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仕掛けの要約【ネタバレ】

作品は三部で組まれている。短い序章、時系列を崩して並べられた多数の断章、短い終章である。

序章では、別荘の尖塔から一人の女が墜落していく場面が描かれる。読者はこれを、物語の発端となる事件——社長令嬢の香織が尖塔から墜落死した夜——として受け取る。断章の大半は、作家の辰巳まるみの一人称で、香織の死の真相を探る調査と、事件と関わりのなさそうな過去の出来事を、順序を入れ替えながら語っていく。

実際には、序章で落ちていく女は香織ではなく、まるみ自身である。序章は物語の時間の最後、調査の決着がついた後の場面であり、断章のすべては、塔から落ちていくまるみの脳裏を一瞬のうちによぎった走馬灯だった。そして香織を死なせたのは、調査する側として語ってきたまるみ本人である。

騙しの技術

  • 冒頭に置いた場面を、発端の事件と重ねる。 序章の女は名で呼ばれない。作品の紹介文も、尖塔から墜落する女の像と香織の墜落死を並べて提示するため、読者は序章を香織の事件そのものとして読み、時間の起点に置く
  • 断章の乱れた順序に、別の理由を思わせておく。 時系列がばらばらであることは読者にもすぐ分かる。読者はそれを作者の演出や謎解きのための構成として受け入れ、語りがどの時点から行われているかを問わない。真相を知ると、順序の乱れは死の直前の想起という状況そのものの表れとして読み直される
  • 語り手の性別を確定させない。 主人公は筆名で呼ばれ、一人称の語りは自分の性別を語らなくても不自然でない。性別がどちらにも取れる書き方が後半まで続くと指摘されており、語り手が女性だと確定しないあいだは、序章の「落ちていく女」と語り手は結びつかない
  • 語り手自身の犯行を、語りの中に置かない。 断章は語り手の記憶の断片であり、何を思い出し何を思い出さないかは語りの状況の側に委ねられている。香織の死にまるみが関わったことは、断章の中では語られない

フェアプレイの担保

  • 序章の女が誰かは本文で名指しされておらず、香織だと書かれているわけではない。誤認の源は、読者が冒頭の墜落を発端の事件に重ねたことにある
  • 時系列が崩れていること自体は隠されていない。断章の配列が手がかりそのものであり、真相を知った後に「なぜばらばらなのか」の答えが与えられる
  • 旧文庫版には作者自身による解説が付き、ノベルス版の読者に気づかれなかった伏線が明かされているとされる(新装版には収録されていない)
  • 主人公の性別については、早い段階で女性だと気づいた読者、最後まで男性だと思い込んでいた読者の両方がいる

効き目

  • 序章が結末の場面だったと分かった瞬間、冒頭の数ページと、その間に挟まれていた断章全体の意味が同時に変わる。作品の構造そのものが仕掛けであり、題名の「断章」が文字どおりの意味を帯びる
  • 時系列の乱れに対する読者の疑いは「どの順に並べ直せばよいか」に向かうため、「語りがいつ、どういう状態で行われているか」という問いが立ちにくい
  • 調査する側の語り手が事件の当事者だったという反転と、語りの時点の反転が、同じ一点(序章の墜落)で重なっている

弱点・破綻しやすい点

  • 時系列の乱れが大きく、真相に至るまでの読みにくさを訴える感想が非常に多い。構成の意味が最後まで明かされないため、そこに至るまでの断片の多さが負担として残る
  • 断章の中に、事件と関係が薄く置き換え可能に見えるエピソードがあるという指摘がある。どれが伏線でどれが関係のない回想なのかが読者には判別しにくい
  • 何を走馬灯として描き、何を描かないかを作り手が自由に選べてしまうため、語り手に不利な記憶が省かれていることを公正さの点から疑問視する評がある
  • 被害者の子の父親が誰かなど、結末で明示されない点があり、解釈に迷ったという感想が複数見られる
  • 構成そのものが仕掛けであるため、同じ手は二度使えないと評されている
  • 語り手が女性だと早くに気づいた読者が、序章を語り手の場面だと判断できたと述べている

読み返してみませんか。

仕掛けを知ってから読むと、同じ記述が別の意味で通ります。

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