一覧 / 盤上の敵

盤上の敵

北村薫 / 1999 / 小説

読者が誤認するもの

人物›人物の誤認›XをY
時間›時系列の誤認›並行
詳しい分類を見る
層複合
叙述N-人物の同一と別N-時間の並行
効果E-同時に描かれる二つの場面は同じ時刻であるE-挿入される断章は本編と対応しているE-目撃者が見たものは事実
手段M-人物すり替え

⚠️ このページは作品の核心(真相)に触れます。未読・未視聴の場合はご注意ください。

まだ読んでいない方へ。この下は真相に触れます。

先に作品にあたるなら、こちらから。

PR:本ページはアフィリエイト広告を含みます。

ミステリは“聴いて”楽しむこともできます(Audible 30日間無料体験)

仕掛けの要約【ネタバレ】

テレビ局に勤める末永純一の自宅に、猟銃を持った逃亡犯の石割が立てこもる。家の中には妻の友貴子が人質として取られている――という状況で、純一は警察の目を盗んで石割と交渉を始める。物語は、純一の側の章(白のキング)と、友貴子が自分の過去を語る章(白のクイーン)が交互に置かれて進む。友貴子の章では、幼いころから彼女を追い詰めてきた同年の女性、兵頭三季との関わりが語られる。

終盤で二つのことが明かされる。

一つは、家の中にいたのが友貴子ではなかったことである。立てこもり事件より前に、友貴子は自宅を訪れた三季を殺してしまっており、純一は妻を家の外へ移していた。石割は無人の家に入り込み、そこにあった三季の死体を末永の妻だと思い込んだ。純一はその勘違いに乗り、石割との取引を、妻を救い出すためではなく死体を始末するための計画として進めていた。

もう一つは、友貴子の章が立てこもりと同時に進んでいたのではなかったことである。友貴子の独白は人質に取られた家の中からの声ではなく、事件より前の時点で語られた過去の回想だった。

騙しの技術

  • 「人質に取られた妻」という状況は、作中の石割・警察・報道が共有している認識として提示される。読者はそれを作中の事実として受け取る。地の文がその認識を訂正しないまま、純一の側の章が進む
  • 純一の側の章は、真相を知っている当人の視点で進みながら、家の中に誰がいるかを読者に明かさない。交渉に臨む純一の振る舞いは、妻の救出を願う夫の行動としても、死体の処理を進める夫の行動としても読めるように置かれている
  • 白のキングの章と白のクイーンの章を交互に並べることで、二つの流れが同じ時間に進んでいるように見せる。友貴子の章は、人質に取られた妻の現在の声として読まれる
  • 友貴子の章は過去の出来事を語り続けるため、本編の立てこもりとどうつながるのかが見えないまま進む。読者は「人質の妻が語っている」という枠を当てはめて読み進める

フェアプレイの担保

  • 章題はチェスの駒(白のキング・黒のキング・白のクイーン)で示されるが、黒のクイーンを題にした章が一度も出てこない。駒の揃い方から、もう一人の重要人物がすでに盤上にいないことが推せる構造になっている、と指摘する評がある
  • 友貴子の章は一貫して過去を語っており、現在の立てこもりの状況には触れない。この語りの性質自体が、同時進行ではないことの手がかりになっている
  • 作中に置かれた小道具(車の中の瓶など)や、純一が友人のもとへ借り物に行く場面が、終盤の計画とつながる伏線として挙げられている

効き目

  • 立てこもりのサスペンスとして読者が純一に感情移入し、友貴子の過去の語りによって「友貴子は被害者」という像が固まったところで反転が来る。救出劇として読んでいた交渉の意味が、すべて裏返る
  • 反転は一度ではなく、人質の正体と、友貴子の章の時点という二つが重なって明かされる。読み返すと、純一の側の章も友貴子の側の章も別の意味で通る
  • チェスの見立てが、仕掛けの手がかりと物語の主題(白の陣営も黒の陣営と変わらない行為をしている)の両方を担っている

弱点・破綻しやすい点

  • 「伏線が少ない」「どう事件とつながるのかスッキリしなかった」と感じた読者の感想がある
  • 一文でひっくり返す型ではなく、終盤にまとめて真相が説明される構成のため、叙述の仕掛けとしてよりも、作中の計画(取引・すり替え・逃走の段取り)の側の驚きとして受け取られやすい。「叙述トリックではない」とする感想もある
  • 三季の悪意は友貴子の主観を通してしか描かれないため、物語の倫理的な重心が読者によって大きく揺れる

読み返してみませんか。

仕掛けを知ってから読むと、同じ記述が別の意味で通ります。

関連する型アヒルと鴨のコインロッカー君の名は。仮面山荘殺人事件アクロイド殺し

← 一覧に戻る