仕掛けの要約【ネタバレ】
本文は「探偵小説作家」が人から聞いた話を記録したもの、という体裁をとる。
読者はその記録者を、中立に事実を書き写す立場の人間として読む。
実際には書き手は情報を選び、書く語を選んでいる。
読者は「外部の何者かによる殺人が起きた」と読む。
そのために、現場に残された痕跡が、外部の犯人の存在を示すものとして提示される。
実際には死者たちの側で完結した出来事であり、外に犯人はいない。
この構造は作中で予告されている。 記録者は冒頭で、
先行するある推理小説からこういう書き方を学んだ、と明言している。
つまり「自分はこれから読者を誤導する書き方をする」と宣言したうえで実行している。
騙しの技術
記録という体裁で、書き手の選択権を正当化する。
人から聞いた話を書き起こしているという設定のため、書かれていないことがあっても不自然でない。
書き手が何を省いたかは、読者から見えない。
語を選んで、断定を避ける。
死の状況について、断定的な語を使わずに書く箇所があると指摘されている。
読者はそこを補って読み、書かれていない事実を自分で作る。
外部の犯人を示す痕跡を用意する。
現場に残された痕跡が、その場にいなかった人物の関与を示すものとして機能する。
痕跡自体は本物であり、意味づけだけが誤っている。
先に宣言することで、かえって隠す。
冒頭の予告は、読者に警戒を促すはずのものである。
しかし前置きとして読み流されるため、実質的に機能しない。
宣言したという事実が、後から見ればフェアプレイの担保にもなっている。
フェアプレイの担保
- 書き手が誤導する書き方をすることを、冒頭で明言している
- 現場の痕跡は実在し、記述に虚偽はない。意味づけが誤っているだけ
- 密室を成立させる仕掛けは物理的に説明され、必要な要素は本文に提示されている
効き目
- 叙述トリックを予告してから使うという構造が、1940年代の作品で既に実行されている
- 日本家屋の構造・在来の道具立てを用いた密室と、記録という語りの体裁が噛み合っている
- 先行作を名指しで参照することで、ジャンルの系譜そのものを作中に取り込んでいる
弱点・破綻しやすい点
- 書き手が説明的に語りすぎるという批判がある(「考察は読者に委ねるべき」という評)
- 密室の仕掛けが機械的に精緻なぶん、叙述の側の仕掛けは目立ちにくい
- 現在の読者は「記録という体裁」自体を警戒するため、予告が本来の効果を持ちにくい