仕掛けの要約【ネタバレ】
紙の本という物体そのものが仕掛けになっている作品。
本の大部分が袋とじで綴じられている。
切らずにそのまま読むと、短い小説として最初から最後まで成立する。
読み終えたあとに袋とじを切り開くと、同じ本から長い小説が現れる。
そして切り開いた時点で、先に読んだ短い小説は物理的に消える。
その文章は長い小説の一部として組み込まれ、独立した作品としては存在しなくなる。
読者は一冊の本に本文はひとつだけ収められていると考える。
その前提そのものが仕掛けの標的になっている。
騙しの技術
ページの綴じ方で、読める文章を切り替える。
袋とじのままなら見開きの外側だけが読まれ、切り開けば内側が現れる。
同じ紙に印刷された文字の、読まれる順序と範囲が物理的に変わる。
先に読ませる順序を、本自体が指定する。
「まず切らずに読むこと」という指示が本に付されている。
読者の行為(切る/切らない)が作品の一部として設計されている。
短い小説を、独立した作品として完成させる。
切らずに読んだ状態でも物語として成立しているため、
読者はそれを一つの完結した作品として受け取る。
だからこそ、それが長い小説に吸収されて消えるときの落差が生まれる。
フェアプレイの担保
- 仕掛けの存在は最初から明示されている。隠されているのは中身であって構造ではない
- 読み方の指示が本に付されており、読者は手順を知った上で読む
- 短い小説として読んだ文章は、長い小説の中でも同じ文章のまま現れる
効き目
- 電子書籍でも図書館の本でも再現できない。紙の本を自分で買い、自分で切るという行為が要る
- 短い小説が長い小説に吸収されて「消える」体験が、読み進めるあいだに繰り返し起きる
- 仕掛けが物理的であるため、読者の身体的な行為が読書体験に組み込まれている
弱点・破綻しやすい点
- 本を切るという不可逆な行為が必要。切ってしまうと元の読み方には戻れない
- 「切りたくない」という読者が実際に多く、仕掛けの半分しか体験されないことがある
- 復刊・電子化のたびに再現が問題になる。媒体依存が極限まで高い
- 図書館・古書での流通に向かない(切られた状態と切られていない状態が混在する)