仕掛けの要約【ネタバレ】
天才的な人形作家・如月まゆらの人形に魅せられた青年・了と、その人形に生き写しのアングラ劇団の女優・聖が、交互に一人称で語る。第二章からは、人形作家を見出したパトロン・創也の側の語りも加わる。
女優の語りには、彼女を経済的に支える年上の「パトロン」がたびたび登場する。創也が人形作家のパトロンであり、女優とも関わりを持つ人物として描かれるため、読者は女優の語るパトロンを創也だと受け取る。
実際には、女優の語りの時点で彼女のパトロンを務めているのは青年・了である。女優は了を相手に、裕福な年上の後援者を演じさせる遊びをしており、語りの中のパトロンはその役を演じている了だった。創也が女優の後援者だったのは、それより前の時期である。
この人物の取り違えを、時間の配置が支えている。女優と青年の関係が始まる前の出来事と後の出来事が、時期の区切りを明示されないまま並べられるため、読者は別々の時期の場面を同じ時期のものとして読み、パトロンが入れ替わったことに気づかない。
騙しの技術
- パトロンの名を語りの中で出さない。 女優の語りでは、相手はパトロンという立場で現れ、誰であるかは特定されない。同じ立場にある創也が別の語りで描かれているため、読者は二つを一人に結びつける
- 作中の遊びを、偽の像の材料にする。 女優が了に後援者の役を演じさせる遊びは、作中で実際に行われていることであり、語りはそれをそのまま書いているにすぎない。役として演じられた「年上の後援者」の像が、読者の中で創也の像と重なる
- 時期の区切りを書かない。 前の時期の場面と後の時期の場面が、どちらの時期かを示されないまま交互に置かれる。後援者が別の人物に替わっていることは、時期の差が見えなければ問いにならない
- 視点人物を増やして見通しを悪くする。 青年・女優・パトロンの三つの語りが頻繁に切り替わるため、読者はそれぞれの場面の時期と人物を整理しきれず、立場の一致に頼って人物を同定する
フェアプレイの担保
- 女優が誰かを相手に役を演じさせているという事実自体は作中にあり、明かされた後は、それまでの場面が遊びの場面として読み直せる
- 再読したとき、読んでいる間に感じた違和感の箇所が真相によって説明される、と振り返る読者がいる
- 一方で、名前を伏せる書き方と時期の入れ替えについて、強引である、あるいはフェアでないと受け取る読者も多い。評価は分かれている
効き目
- 女優の後援者は、人形作家の後援者でもある人物だろうという読みは、登場人物の数が少ない物語では自然に成り立つ。問う必要のない前提として読み流される
- 真相が明かされると、女優と青年の関係が、それまで読者が思っていたより早く、深く結ばれていたことになり、二人の語りの意味が変わる
- 人形に憑かれた人々の暗い物語として読んでいた読者にとって、構図の反転は物語の色合いそのものを変える
弱点・破綻しやすい点
- 視点の切り替えと時期の入れ替えが重なるため、仕掛けとは無関係に、誰が誰で、いつの話なのかが分からなくなったという読者が多い。混乱が驚きに転化せず、単に読みにくさとして残る危険がある
- 名前を伏せる書き方が目立つと、そこに仕掛けがあることは察せられる。仕掛けがあると分かっていながら、つながりの悪い文章を読まされるのが苦痛だったという評がある
- 真相が明かされた後の説明が長く、仕掛けの印象が薄れるという評がある。また、物語の主題から見て仕掛けが必要だったのかを問う声もある
- 役を演じさせる遊びという設定に無理があると感じる読者もいる。名前を言わないだけで足りるのではないか、という指摘がある
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