仕掛けの要約【ネタバレ】
「マンガで叙述トリックをやったらどうなるか」を主題そのものに据えた作品。
構成が二部に分かれている。一方は連続殺人の犯人の視点で進む事件のパート、
もう一方はマンガ家が「マンガによる叙述トリックは可能か」を編集者と検討するパート。
後者では、マンガで叙述トリックを成立させる手段が作中で具体的に列挙される。
つまり種明かしのカタログを先に読者に見せる。
そのうえで、読者はそのカタログを読んだにもかかわらず騙される。
手口を宣言してから使うという構造になっている。
騙しの技術
コマは客観的な記録ではない、という当たり前を突く。
- 読者はコマの構図を「そこで起きたことをそのまま写したもの」として読む。
本作は構図とカメラアングルを作者の意思で選び直すことで、
嘘を描かずに事実を誤読させる
- 台詞の帰属をぼかす。誰が喋っているのかを確定させないコマ運びを用いる
- 特定の語を書かないことで、意図や関係を伏せる
同じ服の人物を、コマごとに別人に差し替える。
一人の人物として読まれていた登場人物が、複数の別人だった。
服装を揃え、髪を揃えることで、コマをまたいでも同じ人物に見える。
→ 小説では書き分けざるを得ない差異が、絵では消せる。
受け手は「連続するコマの同じ姿は同じ人物だ」と読むため、疑いが立たない。
身体の条件を伏せる。
一人の人間だと読まれていた存在が、実際には複数だったという誤認が、
身体そのものを対象として起きる。
→ 「一つの身体=一人」という前提が仕掛けの標的になっている。
死んでいたはずの人物が生きていた理由も、この条件から説明される。
メタ構造そのものが仕掛けの一部。
マンガ家が作中に登場し、叙述トリックを論じる。この「作品について語るパート」が
作品の外側にあるという読者の前提を利用して、語っている側の立ち位置を反転させる。
フェアプレイの担保
- 使用される手法が作中で先に説明されている。読者は手口を知らされたうえで読む
- 情報そのものは描かれている。伏せられているのは帰属と関係であって、事実の捏造ではない
- 二部構成が最初から提示されており、両者の関係を検算する材料は与えられている
効き目
- 媒体そのものへの信頼を突く。 文章の叙述トリックは「書かれていないこと」を使うが、
マンガでは描かれているのに誤読させる。絵は嘘をつかないという前提の強さが、
そのまま仕掛けの威力になる
- 手口を先に開示したうえで成立させているため、再読時の説得力が高い
- 「マンガで叙述トリックは可能か」という問い自体が作品の主題なので、
仕掛けが技巧の披露ではなく作品の存在理由になっている
弱点・破綻しやすい点
- 真相の落着について、過剰さが評価を分ける。奇想の側に振り切れているという指摘がある
- メタ構造に依存するため、作者本人という存在を作品に持ち込む必要がある。
シリーズものや商業的な連載では使いにくい
- 手口を先に開示する構成は、警戒心の強い読者には逆に手がかりを与える